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池田 浩明
2017/08/06

思わず「ああー」とため息 ただごとでないクロワッサンを探しに大崎へ

各駅停車パンの旅 大崎駅編

パンオフゥ

 パンオフゥのクロワッサンがただごとでない。気づいたのは、パンオレザンを食べたときだ。パンオレザンとは、クロワッサン生地でレーズンとカスタードを巻き込んだ、フランスの定番おやつパン。パンオフゥの店頭で見かけたそれは、ゴールデンブラウンのぐるぐる渦巻きのうつくしさが半端なく、思わず買い求めた。

パン オ レザン

 一刻も早く食べたいと急いで店前にある広場のベンチに座り、紙袋から取り出した。折り重なった一層一層はかよわく、手でもっただけでちりぢりになりそうだ。思わず口をもっていくと、ばりっばりっと小気味よく割れる。かと思えば、中にいくほどしっとりして、ぷにゅっと感の快楽に変わる。クロワッサンから噴出されるバター感、アルコールの芳香を含んだレーズンのしずく、そしてカスタードの甘いとろとろが相互貫入、口の中ですばらしい甘さが沸き上がる。夢中になるあまり、クロワッサンの皮をベンチのまわりにこぼしながら「ああー」とため息を漏らすやばい人になっていた。

店の前は広場になっていてパンを食べるのにうってつけ

 いかにカスタードやレーズンがおいしいとしても、それだけではこの三位一体のすばらしさは生まれ得ない。大事なのはクロワッサンのおいしさ、とりわけバターの風味。濃厚だが軽やかで、いつまでも嗅いでいたい心地よさ。表皮においてはキャラメルのように香ばしく、中身の甘さは生々しく芳醇、しかもコクに満ちて力強い。

 思い当たる節はあった。店の壁には光り輝く業務用バターの包み紙が「どうだ!」とばかり貼られていたっけ。フランス産発酵バター、レスキュール。上野史裕シェフにお値段を尋ねると、

「普通のバターが1キロ1500円ぐらいのところ、約2900円します」

 と、なんと倍! 1キロから30個のクロワッサンができるというから…いや、金の話はやめとこう。クロワッサン1個の値段は230円とごく一般的だから、パンオフゥさんがいかに勉強してくれてるかは十分伝わった。

店内に貼られているレスキュールバターの包み紙
業務用レスキュール
レスキュールの包みを開けたところ
叩いて平べったくする
パン生地を「シーター」と呼ばれる機械で薄くする
薄くした生地でバターを包み込む
バターを包んだ生地をシーターでのばす
のばした生地を四つ折り。これを2回繰り返して4×4=16層を作りだす

 パンオフゥのコンセプトは「本格的なフランスのパンを焼く」。だから材料も惜しまず本場のものを使う。レスキュールだけなら使ってない店もないわけではない。もうひとつ、キーになるのは粉。ラ・トラディション・フランセーズというフランス産のハイグレードな小麦粉を使っているという。

「旨味の強い粉でやりたかった。食感もざくざくになります」

 甘さの中にある特別なコクは、バターと粉の合わせ技で生まれているのだ。

店内の様子
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