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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/08/13

『ワンダーウーマン』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

悪人さえ倒せば解決するのか?

 みんな自分の王国に棲んでいる。あなたもわたしもその国の王だ。

 ところで、王子ないし王女が成長し、王ないし女王になっていく物語を作るとき、絶対的に必要なシーンがある。それは一体なんじゃろか!?

『ワンダーウーマン』は一九四一年、第二次世界大戦中にスタートしたアメコミシリーズだ。主人公は女戦士アマゾネスたちの住むパラダイス島の王女、ダイアナ。ある日、島に小型飛行機が不時着し、アメリカ人パイロットのスティーブが出てきた。ダイアナは彼を通し、平和な島の外に争いの絶えない大きな世界があることを知ってビックリする。

 これ以降、コミックもバージョンによってストーリーがちがうのだが、今回の映画の場合、外の世界では第一次世界大戦の真最中。ダイアナはドイツ軍による毒ガス兵器の使用を阻止せんと、制止を振りきり、外へと旅立つ。

 平和な島ですくすく育ったダイアナはこう信じていた。

「人はみんな善人。自分もいい人。戦争になったのはごく少数の悪人のせい」と。だからその悪人さえ倒せば解決するはず。さぁ、行こうっ!

 そんなダイアナの姿を、観客も、同行者のスティーブも、キラキラと眩しい思いで見ることになる。みんな身に覚えがあるからだ。でも……。

 社会の善悪とは、ほんとうはもっと複雑に入り乱れているものだ。戦争が起こったのだって、たった一人の悪人だけの責任じゃない。ダイアナは戦況に翻弄され……。

 王女が成長して女王になる物語に必要なシーンとは、なんだ? それは、純粋だった主人公に「手を汚させる」ことなのだ。嫌悪していた悪に自ら染まり、血濡れてしまった手に、それでも残った一粒の理想を握りしめ、あなたも、わたしも、かつて王国を継いだ。

 清廉潔白だからじゃなく、責任を果たすから王(大人)なのだ。そのとき、物語は苦い普遍性を持つ。

©2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC
INFORMATION

『ワンダーウーマン』
8月25日(金)より、全国ロードショー
http://wwws.warnerbros.co.jp/wonderwoman/

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