文春オンライン

中国当局に拘束されたのか? 新型コロナ告発後に“口封じ”された武漢・女性医師の現在

「どうも不自然だ。誰かが監視している」との危惧も

2020/04/26

 新型コロナウイルスによる肺炎が2019年12月に中国湖北省武漢市で発生し、短期間で世界に広がった。12月末、武漢中心病院南京路分院救急科のアイ・フェン(艾芬)医師はいち早くその危険性を察知し、大学の同期の医師に警告し、それが医師のチャット・グループで共有された。

 ところが、当局から「デマを流した」など前代未聞の厳しい譴責を受けた。他に警鐘を鳴らした8名の医師は、警察から「社会秩序を乱す」と訓戒や事情聴取を受けた。これは日本とは比べものにならないほど重大な意味をもっている。

武漢市内の病院には多くの患者が詰めかけた(1月25日撮影)  ©AFLO

 そして、新型コロナウイルスに関する情報は封じられ、感染が爆発的に拡大した。中国当局が国家呼吸器疾患臨床医学研究センターの鐘南山主任を通してヒトからヒトへの感染を発表したのは、翌年1月20日であった。

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医師の告発を巡る「民」と「官」の攻防

 その後、風向きが変わり、3月5日、中国政府は李文亮医師を新型肺炎の抑制に模範的な役割を果たしたと表彰した。だがやはり感染に関する情報は厳重に統制され、党に都合がよい状況しか報道されていない。

 3月10日にアイ医師へのインタビューが中国共産党系人民出版社傘下の月刊誌『人物』に掲載された。この記事で、アイ医師は凄まじい現場とともに痛恨の心情を吐露し、党の批判などお構いなしに「おれ様はあちこち言ってやるぞ」と、警鐘を鳴らせばよかったと語る。ところが、アイ医師の記事が掲載された雑誌『人物』は、発売後すぐに回収され、インターネット掲載の記事も2時間後に削除され、転載も禁じられた。

李文亮医師の死を悼み、献花する市民 ©AFLO

 だが、「おれ様はあちこち言ってやるぞ」というアイ医師の告発は大きな反響を呼んでいた。SNSなどで転送され続け、当局がそれを次々に削除するという「民」と「官」の攻防が繰り広げられた(「おれ様」は流行語になった)。

アイ・フェン医師は消息不明に

「民」は日本語や英語など外国語、絵文字、甲骨文字、金石文字、モールス信号、点字、QRコードなど100以上の表現方法を駆使して、アイ医師の記事を発信した。その発信は軽い意味ではなく、厳重な言論統制に対する工夫を凝らしたレジスタンスである。かつてないほどの「民」の不信や憤激が込められている。「文藝春秋」5月号に掲載した「武漢・中国人女性医師の手記」という記事は、「民」が復活させたアイ医師の告発記事を日本語訳したものである。

 このような「官」と「民」のせめぎ合いが続く中、3月29日、オーストラリアのテレビ局「ナイン・ネットワーク」が、アイ医師は消息不明と報道した。