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芥川賞受賞者インタビュー
僕たちはこんな本を読んできた 芥川賞作家のこれまでとこれから

滝口悠生インタビュー「高卒フリーターから文学の道へ」#2

小さい頃から縛られることに反発していた

source : 文藝春秋 2016年3月号

genre : エンタメ, 読書

#1より続く)

お通夜を舞台に選んだ理由

©文藝春秋

――受賞作は大家族のお通夜が舞台。故人の子ども、孫、ひ孫、親友など30人ほどの登場人物たちのエピソードが、視点を変えながら描かれていきます。

滝口 最初はお通夜を舞台にしようとは思っていませんでした。これまでの作品より少しでも長いものを書くことが目標としてあって、そのためには人を大勢出そうと考えたんです。親戚がたくさん集まる場としては結婚式でもいいんですけど、死者が語りに絡んでくると面白いんじゃないかなと思って、お通夜を描くことにしたんです。その設定は割りとすんなり決まりました。

――滝口さんの実体験を元にしたお話なのでしょうか。

滝口 元になっている部分もあります。お通夜のときに一晩中お線香を絶やさないように寝ずの番をするというのは、祖父のお葬式のときにやりました。また僕は親戚の数がけっこう多かったんです。するとたまに集まると、名前も知っているし、「○○おば」とか呼んでいるんだけど、つながりはよく分からないという人がいる。でもわざわざ確認せずに何となく話をして、という状況になるんです。それにみんなずっと飲んでいるからグダグダになって、徐々に神聖さも薄れてくる感じも面白くて、書きたいと思っていました。

――物語の重要な場面でテレサ・テンさんの「時の流れに身をまかせ」が使われていました。

滝口 母親が好きでよく聞いていたので、何となく耳に残っていたんです。ただ歌を使うとも、テレサ・テンさんにするとも最初は考えていませんでした。書いていって、ふと「あ、ここで登場人物が歌い出すぞ」って感じて、何の歌かなって思ったときに、突然閃いたんです。「テレサ・テン」だと。自分でもビックリしました。「いいのか、これで」と。でも何も考えずにそうなったからこそ、もう変えようが無いなと。ここが批判されるならしょうがないと考えて、残しました。

©文藝春秋

――書き終えたときは手応えを感じられましたか?

滝口 ええ、自分でも好きな作品になったなと思っています。率直に言って、受賞したことで何か心境の変化があるわけではないんですが、今後、必ず自信になるときはあると思っています。

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