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「長官を攻める私でも、夫婦ゲンカは受け身です」東京新聞・望月衣塑子記者インタビュー#2

2017/08/12
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 原則として平日の午前と午後、首相官邸で行われる菅官房長官の記者会見。今年6月以降、ここに突如として現れた一人の記者が注目されている。

「東京の望月です」と名乗ってから、矢継ぎ早に長官に質問をぶつける女性記者。東京新聞社会部、望月衣塑子記者(42)である。

 鉄壁の長官に果敢に攻め込むこの人は、一体どんな人なのか? #1につづく、インタビュー後編です。

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望月衣塑子さん

社会部記者はしつこくて、常に怒ってる

――菅官房長官の記者会見を取材するようになってから、社会部記者と政治部記者の文化の違いがよく分かったそうですね? 例えばどんなところなんでしょうか。

望月 質問の仕方は違うなあと、改めて感じました。政治部の方たちは日々政治がどう動くかを見ているわけで、北朝鮮のミサイルが発射されたときに菅さんや外相のコメントを取ることが仕事ですからね。一言引き出せればそれがニュースになる世界でもあるんです。だから自然と淡白になるのかも。私のように、事件取材でしごかれてきた身としては異文化でしたから、初めは驚きました。

――社会部の記者の方は、望月さんのように畳み掛けるように質問するのが当たり前だとお聞きしたことがあります。

望月 そうですね。私たちが普段、相手にしているのは警察ですが、事件についてはあまり詳しく教えてくれないんです。裁判まで伏せておきたいことが多いので。だから、新聞社に入社したばかりの駆け出しのときから、会見や取材のときに何回も何回もしつこく聞くということは徹底的に叩き込まれるんです。あと、社会部の人は、たいてい怒ってる。

――怒ってる?

望月 加計学園問題の疑惑にしても、社会部記者は一つ一つ疑惑の種をフォローして根掘り葉掘り取材します。そのモチベーションの一つは、一体どうなってるんだ! という怒りだと思うんですよ。

文春を引用して質問したら突っぱねられた

――望月さんは官房長官への質問のときに「週刊文春によれば」とか、雑誌を引用されることがありますよね。記者会見では珍しい質問の仕方ではないですか?

望月 そうかもしれないですね。でも最近、雑誌に出ていることをここで聞くなという、会見での不文律があるということを知りました。『文藝春秋』や『週刊文春』が加計学園問題をルポした記事を引用して質問したときも、菅さんから「雑誌のことについて、政府として答えることは控えたい」と突っぱねられました。雑誌はいまや政治を動かす大きなきっかけになっているのに、政治家は「雑誌だから」「週刊誌だから」と否定して逃げることが多い。裏を返せば、それだけ雑誌が政治家にとって痛いところを突いていることの現れなんだと思います。

手を挙げる望月記者を指す、菅官房長官 ©時事通信社

――望月さんの質問で印象的だったのがもう一つ。加計問題で出てきた「総理のご意向文書」を菅長官が「怪文書」と批判したことに関して、わざわざ『広辞苑』を引っ張り出してきて聞いていましたよね。あれはどんな意図があったんですか?

望月 ああ、ありましたね。「怪文書」って結構きつい意味合いなんですよ。「いかがわしい文書。無責任で中傷的・暴露的な出所不明の文書または手紙」。あれは菅さんが使った「怪文書」という言葉が、いかにひどい文脈で使われているかを、本来の意味をバシッと出して問いただしたくて入れたんです。質問するにあたって、私はけっこう朝のニュースを参考にしたりもするんですが、字幕スーパーで出るような、ああいうキャッチーな言葉をバシッとぶつけたいところがありますね。