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キモイ! ウマイ! マズイ! 話題沸騰の生物ライターはなぜヤツらを「食べる」のか。

アリゲーターガーから巨大ナマズ、オオゲジまで

喰ったらヤバいいきもの』(主婦と生活社)が売れている。深海魚からイグアナ、昆虫まで、世界中の「キモイ」「ウマイ」「マズイ」生き物たちを、とにかく自分で捕まえて食べる様子が綴られている。とはいえ、ゲテモノ食いの趣味ではなく、あくまでも生物学的な関心が出発点だという。

 この稀代のハンターは何者なのか。著者の平坂寛さんに聞いてみた。

最初にチラッと見えると苦労する

――平坂さんが興味のある生き物を採って食べる。その「欲望」に忠実な行動をしていることがエンターテイメントとして成立しています。

平坂 自分が本気で面白いと思ったことでないと、記事にしたときに読者も楽しめないんじゃないかなと。だから、本当に面白い記事を書くには、自分が心から「面白いな」と思える体験をしなければいけない。この本に37種……ああ、27種か。27種類の生物が出てきて……。すみません、ちょっと人と話すのが久しぶりすぎて、スムーズに話せない(笑)。昨日までずっと沖縄のマングローブと山奥に1週間ぐらいこもっていて、ほとんど人と会話していなかったので。本当は50種ぐらい書きたかったんだけど、その中から厳選した27種ですね。

とにかく楽しそうに語る沖縄帰りの平坂氏 ©文藝春秋

――解体や調理もご自身の手で?

平坂 誰もやってくれないですからね(笑)。奥さんがしてくれたらいいんですけど、あいにく独身なもので。

――世界中を飛び回っていますが、いま拠点はどちらに?

平坂 東京らしいんですけど……。

――らしい?

平坂 オフィスの倉庫に布団を一枚敷かせてもらっています(笑)。あちこち飛び回る合間、月に何回かそこに立ち寄る感じです。要はホームレスですね。

――日々の「狩り」はハードですね。ターゲットを捕まえるまでに相当な苦労をしている様子がうかがえます。

平坂 正直、苦労しないものの方が少ない。一番長期間がんばったのは、横浜で捕まえたアリゲーターガーです。結局、トータルで1年かかりましたが、あれには心底参りました。大きな川のどこかに1匹か2匹いるという条件だと厳しいんですよ。絶望しかない。

――ただ、最初にアリゲーターガーの姿が見えてしまったとか。

平坂 苦労するパターンは、いつも最初にチラッと見えるんです(笑)。アイコンタクトで「オレ採れるよ」って語りかけてくる。だから、「ああ、他の人に採られちゃう」と慌てて没頭するんですけど、そこからまったく姿が現れなくなる。地元の人が「いるいる」「よく採れるよ」と言っているときも、ヤバイことが多いですね。

まな板の上のアリゲーターガー ©平坂寛

――千葉県の海にも一時期通い詰めていたそうですね。

平坂 「天使のサメ」と呼ばれるカスザメを狙っていたんです。このときも、地元の方からは「釣りをしてると、いくらでも針にかかる。邪魔でしょうがない」と言われたのですが……。カスザメは、年末年始のごく限られたタイミングでしか岸に寄ってこない。しかも、1年間に数日だけ。当時、実家のある長崎に住んでいたので、その魚を釣るために交通費だけで30万円ぐらいかかっちゃいました。全然カネがなかったので、段々と「天使」じゃなくて「死神」に思えてきましたね。千葉に遠征に行くたびに食べるものが粗末になっていくんです(笑)。釣り糸を垂らしながら、寒空の下でバナナをかじる生活を送っていました。

 地元の方とSNSでつながって、「サメが捕れたよ」という投稿があったら、急いで電話をして「このタイミングでどうだろう」と相談。「ここだ!」と狙い澄ましてようやくゲットしました。

――自分で捕まえた獲物じゃないと意味がない?

平坂 そうですね。食べることが最終目標だったら、何でもいいと思うんですよ。魚屋さんで買っても、釣った人からもらっても。ただ、僕にとって、食べるという行為はたくさんある要素のうちのひとつに過ぎないんです。捕まえる過程で、こいつはどこに棲んでいてどんな動きをするんだろう、どんな暴れ方をするんだろう、噛まれたらどれぐらいの怪我をするんだろう……そういう確認を実際にするのが楽しみ。鳴き声を聞くのも、匂いをかぐのもそうですが、「五感を通じて生物のことを学ぶ」のが僕のモットーなんです。僕が生き物を食べるのは、腹でも舌でもなく、あくまでも好奇心を満たすためです。