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キモイ! ウマイ! マズイ! 話題沸騰の生物ライターはなぜヤツらを「食べる」のか。

アリゲーターガーから巨大ナマズ、オオゲジまで

note

―― これから狙っているターゲットはなんですか?

平坂 とりあえずキングコブラですね。

未知なる生物へのハント欲は尽きない ©文藝春秋

―― キングコブラを捕まえて食べる?

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平坂 食べるかなぁ……。けっこう誤解されがちなんですけど、必ずしも食べるわけじゃないんです。殺せないときもあるんですよね。例えば、北アメリカ原産のワニガメは食べるつもりで捕まえたんですけど、あまりにカッコよくて、かわいくて、「これは殺せないな」と思って専門の施設に持っていったことがあります。

 食べなかった生き物といえば、こないだ石垣島沖の深海で釣りをしていたら、見たこともない魚が釣れたんです。経験則から「コイツは間違いなく脂が乗っててウマイ魚だ」とわかる体型をしていた。ただ、どうしても魚の名前がわからなかったから、知り合いの専門家に「これなに?」と写真をメールで送ったところ「絶対に食うなよ!」と念を押されましてね。新種か、あるいは捕獲サンプルが数例しかないような貴重な魚だったらしく、「いますぐウチの研究室に送れ」と。でも、すっごくおいしそうだったんですよね(笑)。そんなに簡単に新種が見つかるとは思っていませんが、既知の種とは違う特徴も出ている個体でした。まだ検査の結果は出ていませんが、あれは食べてみたかったですね。

オオゲジは、このあと塩茹ででいただきました ©平坂寛

――フナクイムシ、オオゲジなど、かなりビジュアル的にキツい生き物も含まれていますが、口にするのを躊躇するような感情はありませんか?

平坂 このへんは余裕です(笑)。

――いろいろとヤバイ生き物を食べてきて、とりわけウマかったのはなんでしたか?

平坂 この本に出てくる中では、竜田揚げにしたグリーンイグアナかな。すごく素直な「いい肉」の味がしました。脚と頬肉、それから尻尾が可食部で、それ以外の部位からもいい出汁が取れました。イノシシも鹿もカミツキガメも、ちゃんと処理をしても獣臭がするんです。ところが、グリーンイグアナは鶏肉のような味わいで、まったく臭みがなかった。「なぜかな?」と考えると、同じ爬虫類のカミツキガメやスッポンは雑食で、小魚やザリガニなど動物性の餌を食べている。イノシシも雑食ですね。グリーンイグアナは成体になると完全な草食で、木の実や花しか食べていない。だから、肉に臭みがないんだなと。

石垣島で捕獲したグリーンイグアナ ©平坂寛

――見た目と味のギャップが凄かったのはどれでしょう。

平坂 ギャップでいうと、やはりオオゲジですね。僕も子どもの頃はすごく苦手な虫だったんですが、塩茹でにして食べてみると完全に里芋の味。エビっぽい味を予想していたところ、見事に裏切られました。「じゃあ、里芋を食べればいいじゃん」と突っ込まれるんですが、そういう話じゃないんです(笑)。僕は美食家ではないですから。美味しいものが食べたければ、築地に行けばいい(笑)。わざわざ香港のドブ川に行って、ヘドロの味のするナマズを食べたりしませんよ。ただ、僕は「なんでこの見た目で里芋の味がするんだろう」っていう不思議な体験が何よりも楽しいんです。最近、逆に「オオゲジが里芋の味なんじゃなくて、里芋がオオゲジの味なんじゃないか」と思うようにすらなりましたね。里芋ってちょっと泥っぽい風味も含めて、他にないオンリーワンの味です。まぁ、今回オンリーツーになったわけですが。そのあたりを探求していると、やってる本人としては楽しくて仕方ない。

 そのあたりを一緒に面白がってくれると、著者冥利に尽きますね。

喰ったらヤバいいきもの

平坂 寛(著)

主婦と生活社
2017年7月7日 発売

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