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長田 昭二
2017/08/27

「わがアニサキス戦記」――医療ジャーナリストが寄生虫の“激痛”を告白

最近、渡辺直美や庄司智春など、芸人たちが立て続けにアニサキスの被害を告白している。実は『週刊文春』執筆者の一人、長田昭二氏もこの寄生虫のせいで入院する羽目になった。体験した人にしか分からない“痛み”と対処法を、医療ジャーナリストならではの目線で描く。(『週刊文春』2017年5月25日号より)

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 日頃様々な疾患について取材し、原稿を書く身でありながら、病気のつらさは実際に経験してみないと分からない。「アニサキス」がまさにそうだった。そもそも我が身に起きたその痛みを、アニサキスとは思わず、心臓、あるいは食道の異変と考えていたのだ――。

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 2016年2月10日から2泊3日で、月刊誌の取材のため沖縄を訪れていた。

 12日の夕方羽田に戻ると、そのままバスで新宿に向かった。友人と約束があったのだ。30分ほど早く約束の居酒屋に着いたので、シメサバを肴に生ビールを飲んで時間を潰す。友人が現れる頃、シメサバを食べ終えた。つまり、友人と同じ居酒屋で飲食をしたが、シメサバを食べたのは私だけだった。

長田氏はシメサバで感染した ©時事通信社

 したたか酩酊し、新宿区内の自宅に帰ったのが午後11時頃。疲労と酔いで倒れ込むように寝てしまった。

 午前2時に目が覚めた。

 胸の中央、ウルトラマンなら「カラータイマー」があるあたりに異変を感じた。最初は「違和感」だったが、次第に進展し、午前3時を過ぎる頃にはハッキリした「痛み」になっていた。

 初めての感覚だが、あえて過去に経験した症状と重ね合わせると、胸焼けに近い。私は「逆流性食道炎」だと思った。飲み食いしてすぐに横になったので、胃酸が食道に逆流して炎症を起こしていると考えたのだ。

 胃酸抑制剤を飲んでみたが痛みは治まらず、逆に悪化していく。午前5時を回る頃には「激痛」と呼べる事態に発展していた。

 食道炎でなければ、食道がんか……。学生時代はまるで酒が飲めなかったが、社会に出てから鍛えて飲めるようになった。今ではアルコールを摂取しない日はない。一番食道がんになりやすいタイプだ。医療ジャーナリストにならなければ知らずに済んだかもしれないそんな知識が、大きな不安となって自らを苦しめる。

 こんな時、家族がいれば不安も和らぐのだろうが、2年前に離婚し、50歳にして独居の身。暗闇の中、一人苦悶する。

 午前6時を過ぎた。痛みを大・中・小に分けると、「大」と「中」を行き来している。カラータイマーの奥の1カ所が、ピンポイントで焼けるように痛い。

 朝、病院が開くのを待って受診しようと思うが、問題が2つある。1つはこの日が土曜日で、医療体制が薄いこと。もう1つは、この痛みがどの臓器で起きているのかが分からない、ということだ。「カラータイマーの奥」には食道もあるが心臓もある。肺の症状が胸の中央に感じられることだってないとは言えない。