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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2017/08/27

『いつも心はジャイアント』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

他の方法がダメなら奇想天外で行け

 急に電気が消え、真っ暗になるような感じかな? それともきれいな自然の中を自由に飛ぶような気持ちか……?

 人生の終焉がどんなふうに訪れるのかを考えるたび、わたしはだいたいこの二つを連想してきた。でもこの映画を観終わったとき、恐らくヨハネス・ニホーム監督以外の誰も考えたことがなかっただろう、不可思議で神話的な死のイメージを前に、地になぎ倒された思いになった。

 舞台はスウェーデンのとある福祉施設。主人公のリカルドは頭部が変形する狭頭症という難病を持つ三十歳の青年だ。最近は相棒のローランドと、ペタンクという球技に没頭している。北欧選手権で優勝したら、生き別れの母親と再会できるはず、と信じているのだ。

 リカルドは病気のせいで視界が狭いことに苦労し、周囲の好奇の目にもさらされながら、練習に励む。ある日ローランドが言う。

「世界の中心に近づきたいんだ。不可能に思えたって解決策はある。他の方法がダメなら奇想天外で行け」

 この台詞がわたしはとても好きだった! 監督曰く、今作のアイデアのきっかけは“自分が抱える周囲とのコミュニケーション不和の問題”だという。そうかー……。

 主人公も、監督も、観客のわたしたちも、それぞれの形で、不自由な運命の只中にいる。別人の恵まれた人生とマルッと取り替えられたらどんなに楽だろう~。でも現実的に無理~。じゃ、運命に対抗する手段って、何……?

 この映画のテーマは“奇想天外な想像力は生きる手段となりうる”ということだ。リカルドの内にも豊かで広大な世界が広がっていく。そして最後には“想像の持つ怪力”が悲しい現実をなぎ払うのだ。

 今作は『はるかな国の兄弟』(リンドグレーン作/岩波少年文庫)の影響を受けているという。死にゆく幼い弟のために兄が架空の国を作るお話。これもよい本です。

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INFORMATION

『いつも心はジャイアント』
新宿シネマカリテ他全国で順次公開中
http://www.giant-movie.jp/