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常井 健一
2017/08/28

永田町「権力の三角地帯」を行く #1

50年後の「ずばり東京」

 永田町2丁目には、政財界の大物や高級官僚、地方の有力者らが列をなして訪れ、官邸以上に強い磁場が働く3つのビルがあった。

 ノンフィクションライターの常井健一氏が、さまざまな政治ドラマの現場となった「権力の三角地帯」をルポする。

(文中敬称略)


出典:「文藝春秋」2017年8月号「50年後の『ずばり東京』 永田町『権力の三角地帯』を行く」・全3回

◆◆◆◆

 雑誌の記者は国会議事堂の中を歩かない。それは伝統的に記者クラブから排除を喰らっているからではない。新聞やテレビが報じる建前よりも本音に迫り、活字に残すのが生業だからだ。おのずと永田町でも“裏道”を歩くことが日常になる。

 議事堂の裏には首相官邸と衆参の全国会議員が拠点を置く議員会館が3棟並んでいる。その裏口を出たところに人通りの少ない2車線の道路が300メートルほど走っている。多くの議員はその道を使い、車で2分の場所にある宿舎から通っている。

 一帯にはオフィスビルが3棟、ホテル1棟、マンション1棟、民家らしき建物が9軒、酒屋と日本料理店と交番が1つずつ並ぶ。その裏手の丘には、日枝神社の境内と都立日比谷高校の校庭が広がっている。

 住所で言えば、東京都千代田区永田町2丁目。ビルの谷間に10年近く塩漬けにされた土地があった。そこがフェンスで囲われたのは、昨年のこと。標識看板にはこうある。

〈建築物の名称 (仮称)アパホテル国会議事堂前駅前〉

 テレビCMでおなじみの会社だが、「アパ」とは一体何の意味なのか――。そんなことをふと思い、まず裏山の向こうに聳える本社を訪ねた。

「JAPANと書いて真ん中を見てみなさい。『A・P・A』でしょう」

アパグループ代表・元谷外志雄氏 ©文藝春秋

 高そうな壺が並ぶ豪奢な執務室の中で、黒いマオスーツに身を包んだホテル王は真顔で即答してくれた。アパグループ代表の元谷外志雄だ。

 でも、どうして永田町に作るのか。元谷は机に広げた都心の地図にペンで三角形を引きながら続けた。

「永田町こそが日本の中心。権力が集中する一等地ですよ。APAの理念と一致するんじゃない。そこに我がホテルチェーン7万室の中でも日本最高級のランドマークホテルを作る。1984年に石川県から東京に進出して以来考えてきた戦略です」

 経営理論の「ランチェスターの法則」では、まず3つの拠点を築き、三角形の面ができたところで、その市場を制圧する最終目標を中心に定める。元谷の場合、新宿、六本木、日本橋の3地域に9棟ずつ構えると自然と永田町が浮上したという。

「ちょうど良い土地が競売に出ていた。これはいくら高くても買わなくてはいかんと思って、一帯の通常価格の3〜4倍、数百億円は必要かなと。これまで買った中では一番高かったけど、いつも通り現金払いです。儲けを考えたら買えないけど、アパのブランド価値は必ず高まる。『いくらでも出せ』と指示しました」

 競合は日本財団とも囁かれたが落札。ホテルは500室で2019年開業を目指している。官邸からヘリが飛び立つ関係で高さ規制が課されるため、17階建てに止めたという。

「国会議員を相手にオフィスや宴会場を貸しても割に合わないから、ホテルに集中しますよ」

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