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北尾 トロ
2017/08/29

成功する「地方豪族企業」――高知「くいしんぼ如月」、博多「牧のうどん」、三重「ぎゅーとら」を訪ねて

北尾トロ×大宮冬洋

30年以上の歴史があり、東京進出を目指さず、地元に愛されている会社を地方在住ライターが訪ねる「地方豪族企業」ルポ。後編は、長野に移住したライターの北尾トロ氏が高知、福岡、三重に根を張る豪族領主を取材。人口減・ニッポンを生き抜く知恵がここにある。(前編より続く)

文・写真:北尾トロ/出典:週刊文春2017年8月3日号

◆ ◆ ◆

 繁華街の一角にその店、『くいしんぼ如月』はあった。午後7時、行列ができるほどじゃないが切れ目なく客が訪れては出来たての弁当を買っていく。家族で食べるのか、まとめてオーダーする客がいても、厨房とレジを3人で回すスタッフは慣れた手つきでカツを揚げ、飯を盛り付け、瞬く間に弁当箱に詰めてしまう。見事なチームワークだ。

 店舗はコンビニと弁当屋の合体型。1977年創業の(株)きさらぎによって、高知県内で20店舗が運営されている。年商は約17億円(2015年3月実績)。強豪ひしめくコンビニ・弁当業界で、地域密着のローカルチェーンがこの数字を叩き出しているのは大健闘の部類に入るだろうが、雰囲気はいたってのんびり。マニュアルを使うどころか高知弁全開でお客さんとやり取りしている。和むなぁ。

如月は高知の元祖コンビニ

 チキン南蛮弁当を買い、宿泊先のホテルに持ち帰った。高知県民なら知らぬ者はいないと噂され、ソウルフードと言い切る人までいる名物弁当。高知出身の友人は、地元を離れた後で他県には一軒もないと気づいてショックを受けたそうだ。以来、帰省するたびに必ず食べるばかりか、わざわざ東京まで持ち帰るらしい。いったいどんな味なのか、興味津々で食べてみると……意外に普通だ。甘みのあるソースは独特だが、飛び上がるほどの味とは思えない。そもそもチキン南蛮は宮崎県の名物。それがなぜ、高知でソウルフードに。

南蛮のバリエーション

 翌朝、川村栄一社長に尋ねると気の抜けたような答えが返ってきた。

「35年ほど前だったか、宮崎にゴルフに行ったとき食べたチキン南蛮がおいしかったから、ウチでもやってみようと肉の漬け込み方法やタレの研究をして商品化したんですよ」

本音全開の川村・きさらぎ社長

 なんだそれ。社運を賭けて県民に勝負を挑んだというようなドラマチックな裏話はないのか。

「まったくの偶然です」

 しかも、味の決め手となる“オーロラソース”を開発したのは店で働くパートの女性。誰が作ったかなんて問題ではないのだ。

「人気が出た頃、ファミレスのメニューにチキン南蛮が登場したんですよ。小さな字で“如月さん真似してすみません”と書いてあって。ありがたかったね」

 類似商品を出されても、目くじらを立てるどころか名誉なことだと喜ぶ。結果、人気はますます高まり、チキン南蛮を地元の名物だと信じて疑わない県民が続出するまでになった。年に1日の感謝デーには、チキン南蛮弁当目当ての客で交通渋滞になり、1日で2万食が売れるそうだ。

 創業当時は惣菜をスーパーに卸すのが事業の中心。1981年、東京で弁当屋チェーンが人気と聞き、テイクアウトの弁当屋を3店舗開店する。ところが、立地のいい場所に出した2店舗は赤字で、工場前の空き地に“ついでに”出した店だけが好調だった。近くに市場があったため、ここだけが24時間営業だったのだ。

社長スペシャル弁当

 ならば我が社は全店24時間営業で行こうと決めた。コンビニなど影も形もない時代、高知の夜を『くいしんぼ如月』が明るく照らした。そして後には自ら、コンビニ併設の弁当屋になってしまう。まさに時代の先取りだ。

「ホメていただくのは嬉しいけど、それも狙ってやったんじゃないき。お客さんが欲しがるものを仕入れて売り出したら、あれも置け、これも置けと。だいたい、コンビニというものを知らんのだから。後になって“本物”がきたときは驚きました、ははは」

 豪快に笑う川村社長は2代目。初代と血のつながりはなく、流通関係の仕事に従事しながら、創業当初から友人として協力してきた関係だった。ところが、1991年に初代が病に倒れ、2代目を直接頼まれた。断ったら友人は気を落とすと考え、親族の了承を条件に引き受けたという。

『くいしんぼ如月』が地元にこだわるのは目の届く範囲で商売をしたいから。フランチャイズ展開せず直営店のみなのも同じ理由からである。ここ数年、弁当に強いセブン-イレブンの進出で守りの経営を余儀なくされていたが、閉店した他のコンビニ跡地に出店するなど反撃態勢を整えつつある。値段競争はせず、大手企業にも負けない知名度と麺類まで扱う多彩なメニュー、リピーター率の高さで勝負をかけるつもりだ。

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