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北尾 トロ
2017/08/29

「ウチを真似したら潰れる」

 勝負といえば、昨春、同社は24時間営業から完全撤退した。店の根幹を担う深夜の売上げを捨てるのは、人手不足の深刻さを肌で感じているからだ。厨房で調理して出来たてを弁当にするスタイルだから、アルバイトには任せにくい。ならば、一時的に経営が苦しくなっても、店の営業時間を変えるほうがいい。

24時間営業から完全撤退

 24時間営業したくても働き手がいない。そして、その後には超高齢化による深夜帯の需要激減がやってくる。おそらくこれは5年後、10年後に日本中のローカルで起きることだ。“野生の勘”でいち早く24時間営業を開始し、コンビニのない時代にその要素を取り入れた如月は、時代のフロントランナーになっているのかもしれない。

 それにしても、全店で実施するとは。

「高知の県民性で、中途半端は嫌われる。やるなら潔く全部。それしかないき。さてと、昼ごはん食べましょうか」

 チキン南蛮弁当を川村社長と一緒に食べた。なぜか昨日よりおいしい。僕は早くもオーロラソースの虜になりかけているのだろうか。

如月の店内

博多のソウルフードは、ダシを吸って“麺が増える”うどん

 博多の食と言ったらラーメンを思い浮かべるだろうが、地元の人に尋ねると、腰のないヤワヤワなうどんこそソウルフードと答える人が多い。中でも愛され度ナンバーワンは通称“マッキー”こと『牧のうどん』だろう。麺がダシを吸ってふくらみ、食べても食べても量が減らないどころか増えていくため、やかんに入った継ぎ足し用のダシが付いてくることで有名。一度訪れたら忘れられないほどインパクトが強いローカルチェーンだが、店舗数は18にすぎない。ライバルがひしめくこの地で、1973年の創業以来ファンを増やし続けている理由は、麺が増えるからだけではないだろう。

福岡で知らぬ者なし
ごぼてんうどんとかしわめしのセットで600円

 そう思って、(株)釜揚げ牧のうどんの畑中俊弘社長に話を聞いたら仰天した。マッキーが愛される理由は、よそが真似しようとしてもできない「非効率さ」だったのである。

 まず、ダシにコストをかけている。売上高の7%が昆布のコストなのだ。しかも前述のようにダシ使い放題のスタイルときている。カレーうどんもひどい。材料費のかけ過ぎで売れても儲からないのだが、それで定着しているから味も値段も変えられない。唐揚げに至っては原価7割だ。どうかしている。

 つぎに、厨房の面積が異様に大きい。巨大な釜揚げの機械がどーんと置かれているため、小さな店舗づくりが不可能になっている。しかも、生麺から40分かけて茹で続けるので、注文が入らなければロスが出てしまう。薄利多売でないとやっていけない商売なのに、わざわざロスの避けられない製造システムを採用しているのだ。

大きすぎる(!?)厨房

「だから、ウチを真似した店はみんな潰れてしまうんですよ」

 マッキーはロスした麺を売るノウハウを持っている。だが、真似した店は余った麺の処理に困ってみんなつぶれるので競合相手に悩まずに済むのだ。

「8年前に会社を受け継ぎましたが、創業者の父が穴だらけの経営をしてきたので、ビジネスモデルとして変なんです(笑)。おかげさまで、客席を減らしてでも広い厨房を作るというバカなことをやってる店はウチだけです」

 うどん作りの追求と過剰なサービス精神で突き進んだ先代の手法にあきれつつ、畑中さんはビジネスモデルを一新する気配がない。利益を追求する企業なら避けそうなことを貫いているのはなぜか。どうもマッキーは企業意識が薄いようなのだ。うどん屋が大きくなっただけと社長が言い切るもんなあ。その言葉に嘘はないと思えるのは、いまいる場所が、社長室とは思えないほど質素な部屋だからである。そこに使う金があればダシに凝りたい。良いと思う材料を試し、新商品開発したい。

 決めているのは安易な値下げや値上げをしないこと。ここの値段は博多のうどん屋全体の相場に影響するからだ。

 博多駅前にも店舗はあるが、基本は車で来てさっと食べてもらう郊外型。本店(敷地1000坪!)ではランチタイムになると1時間に200食の注文をさばく。20秒に1食のハイスピードを熟達のおばちゃんスタッフが笑顔でこなす様子は見事としか言いようがない。