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虎ノ門「峠そば」 若店主が「ネコ舌」だったから生まれたメニュー

こっそり食べていたものを、常連が発見

2017/09/05

genre : ライフ, グルメ

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 都内の立ち食いそば屋で「峠」と名前の付く店は三軒ある。

 浅草の西参道商店街にある「峠そば ささごや」は元呉服屋で、今の女将さんが実家に戻ってきたら、立ち食いそば屋になっていたというユニークなお店。外国人観光客も多い。

 三ノ輪の明治通り交差点にある「峠の蕎麦」は、寡黙な大将が生麺使用のうまいそばを提供している店だ。至近の茹で麺がうまい「長寿庵」とは対照的な存在。

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 そして、今回ご紹介するのが虎ノ門にある「峠そば」である。

再開発の話をしながら、そばをすする

虎ノ門 峠そば

「峠そば」は以前、神保町のすずらん通り、キッチン南海の三軒隣、今の小諸そばの隣あたりで「スタンドそば」という名前で営業していた。バブル前のすずらん通りには狭い金寿司もあったし、今よりずっと混沌としていた。立ち退きにより、平成5年に今の虎ノ門に移転して「峠そば」として再スタートした。「スタンドそば」についてはいつか書いてみたいが、1975年当時、虎ノ門の鈴傳の隣にあったし、日本橋にも店があった。その流れなのかは定かではない。現存するのは「岩本町スタンドそば」だけである。

 「峠そば」が営業しているかどうかはすぐわかる。お店に近づくと20メートル手前からごま油の香りが漂ってくるからだ。「よし、何を頼むか」と心が躍る。

 午前中に行くと、いつも常連さんたちがゆっくりと天ぷらが揚がるのを待っている。帽子をかぶった新聞社の方や近隣の企業のお偉いさんたちが、若店主と虎ノ門地区の再開発の話などを熱心に交わしている。「峠そば」も立ち退きの地区に入っているというから気が気じゃない。

 

「峠そば」は化学調味料などを使わないコクのあるつゆが有名である。そばは生麺。薬味にねぎと千切りした大根を入れてくれるのがすごくよい。天ぷらは、ほぼ注文後に揚げている。ごま油の香るからっとあがったタイプ。カウンターにはゆで卵、いなり寿司、無料のトッピングのかつお節が置かれている。