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山内 宏泰
2017/08/26

「美女採集」の清川あさみが書店をアートで染める

 ギャラリーや美術館でよく見かける、壁はもちろん床や天井まで白一色で統一された空間を「ホワイトキューブ」という。作品のかたちや色、輝きを、何にも邪魔されず味わうのにもってこいなのだけど、アートの見方はそれにかぎらない。脱・ホワイトキューブな環境で楽しめる展示がひとつ。つくばエクスプレス線柏の葉キャンパス駅近くでの、清川あさみ「ココちゃんとダンボールちゃん」展。

絵本から飛び出した「ココちゃんとダンボールちゃん」

 会場はショップの中にある。今年3月にオープンした柏の葉T-SITEは、蔦屋書店を中心にしていくつものカフェ、玩具店、インテリアショップなどが同居する複合商業施設。近隣に住むのは子育て世代が多いことから、2階はフロア全体が、児童書など子どもをテーマにしたもので埋め尽くされている。

撮影/著者

 絵本がずらりと並ぶ大きな棚に目をやると、小さい絵がいくつも埋め込まれている。それらがじつはアーティスト清川あさみの作品だった。写真などに刺繍を施し、ときにビーズやスパンコールもあしらうのが清川の手法。広末涼子に長澤まさみと名だたる女優・アイドルを被写体にして、そこに動植物の刺繍をしていく「美女採集」、被写体の内面のわだかまりを刺繍で表す「Complex」といったシリーズで知られる。

 書棚と同化するように置かれた絵には、愛らしい幼児と、擬人化されたダンボールが描かれている。よく目を凝らせば、刺繍で縁取りがしてあって、スパンコールなどで絵のあちこちが装飾されている。まるで絵本をほどいて、ページごとに展開したかのようと思ったら、それもそのはず、展示されているのは清川あさみが手がけた絵本の原画だった。

撮影/著者

 2013年に刊行された絵本『ココちゃんとダンボールちゃん』は、自分の居場所を探るココちゃんと、ともに悩み支えになってくれるダンボールちゃんのお話。ストーリーもビジュアルも清川が手がけたオリジナル作品だけに、かわいらしくわかりやすいのはもちろん、展開・絵柄とも高い質を誇り、大人も楽しめるものになっている。

『ココちゃんとダンボールちゃん』清川あさみ

 その原画が16点、ここで展示されているわけだ。画面内の刺繍は高度なテクニックを誇るようなものではなく、スパンコールなども高価なものではないごく普通の品。ココちゃんとダンボールちゃんの姿も、アーティストが描いたからといって気取ったところはかけらもなく、ひと目で惹きつけられてしまう造形なのがいい。

 この親しみやすさこそ、清川あさみの大いなる特長だ。わかる人だけわかればいいというアートは好きじゃないと公言する清川は、老若男女を問わずできるだけたくさんの人と共有できる作品をつくりたいと考え、そこに社会的なメッセージを含ませようとする。美術館に飾られる大作も制作するが、「ココちゃんとダンボールちゃん」のような小品もまた、同じ情熱とエネルギーを注いで世に出していくのだ。全力で展示に取り組んだことが、間近で作品を観ているとよく伝わってくる。

段ボールでできた巨大オブジェが店内に屹立

 原画が置かれた書棚の横は吹き抜けになっていて、下階を見れば何やら大きな塔が立ち上がっている。降りてみると、段ボールでつくられた造形物が、通路の真ん中にどんと置かれていた。全高3メートルの巨大オブジェ、こちらも清川あさみの作りおろし作品だった。

撮影/著者

 周りにいろんなジャンルの雑誌の最新号が積まれ、スターバックスの注文カウンターがすぐ傍にある、いわば雑然として俗っぽい環境に、オブジェはしっくり馴染んでいる。ところどころペインティングされた色合いはおもしろく、無数の段ボールや椅子の脚などが組み合わされた塔のかたちも興をそそる。造形表現としてよく練られていながら、まずはパッと見て楽しく、その場の華やかさを引き立てることがしっかり考慮されているのだった。

撮影/著者

 アートとしての完成度と、誰もが楽しめる一般性、双方を高いレベルで実現している展示。アーティスト清川あさみの最新作品を、書店のなかでゆっくり味わいたい。