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完璧な日本語で「お疲れ様です」 誰もがファイターズ・マルティネス投手のファンになる理由

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/05

 この話を私はいろいろな人にしてしまう。そのくらい自分にとってはインパクトがあって、大好きなエピソードなのだ。

 2018年の3月初め、札幌ドームのベンチ裏。午前中から取材に行っていた私にすれ違う人が声をかけた。

「お疲れ様です」

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 私は反射的に「お疲れ様です」と返した。

 でも、なんとなく気になって後ろを振り返ってみたら、そこにいたのは、次にすれ違う人に「お疲れ様です」と挨拶をするニック・マルティネス投手だった。

 それはいわゆる来日したての外国人が使うたどたどしく、ちょっとかわいらしさすらあるニホンゴではなく、イントネーションも言葉をかける間合いまでもが完璧な「お疲れ様です」だった。

 また一人、素敵な外国人選手がやってきたな、その姿を見て嬉しくなったのを今でも思い出す。

来日3年目のニック・マルティネス

アメリカでのオファーを断って日本の野球を選んだ理由

 2018年にファイターズへ、今年で3年目を迎えている。

 最初の春季キャンプ、あの頃、ファイターズの1軍はアメリカ・アリゾナ州で前半を行っていて、彼は志願して集合日よりも前に自主トレとして合流した。

 メジャー通算88試合で17勝という実績のある選手、マナーや周りへの気遣いも最初から素晴らしかった。聞けば複数のアメリカでのオファーを断って日本のプロ野球を選んだという。レンジャーズでの同僚に元ファイターズのダルビッシュ有投手がいたことも大きかっただろう。

 日本の野球が基礎的なことを大事にしていること、シングルヒットやバントも重要視していることなどを聞いていて、小さい頃にスモールベースボールを学んでいたという彼には日本で成功する姿が想像しやすかったのかもしれない。自分の野球人生の中で日本でプレーすることが大きくプラスとなると考えて決断したと話していたのも印象深かった。

 ファイターズを選んだのもダルビッシュ投手の影響があると思う。組織としてのチームの話、そして札幌の街の様子についても聞いていたようだ。

 2018年の初勝利は完投で飾った。新外国人投手が来日初勝利を完投であげるのはチームではウィッテム投手以来19年ぶり、北海道のチームになってからは初のことだった。

 そのほぼ1か月後の5月に第一子となる女の子が誕生した。外国人選手によくあるようにマルティネス投手も出産に付きそう為に一時チームを離れたが、札幌は離れなかった。そう、マルティネス夫妻は日本での出産を決めていた。

 通訳や球団スタッフに相談し協力をしてもらって、札幌市内で外国人でもなんの心配もなく出産出来る病院を探した。日本のチームに所属する立場から、なるべく長く家族と寄り添えてチームへの負担を出来るだけなくすための選択だった。奥様の理解も相当なものだったろうし、ファンもとても嬉しかった。家族でファイターズに来てくれたんだなと感じた。

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