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「このピッチャーは二桁勝てる!」 ベイスターズ・平良拳太郎の球を受けて確信した理由

文春野球コラム ペナントレース2020

2020/08/08
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 私は2012年から2019年までの8年間、横浜DeNAベイスターズの捕手としてプレーし、目立った活躍は出来なかったが、1軍や2軍の投手のボールを数多く受けてきた。現役引退後は、ベイスターズファンとして試合観戦を楽しんでいる。

 よく「受けていて誰が一番良い投手?」と聞かれる事がある。そんな時は即答で「平良」と答えてきた。

 ストレートの球速は140キロから145キロ、スリークォーター気味に投げる平良の投球は外から見れば、いたって普通の投手に見えるかも知れない。

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 私も平良のピッチングを受けるまではそうだった。

 初めて平良の投球を見たのは、まだジャイアンツのユニフォームを着ていたのだが、はっきり言うと「打ちやすそうなボールを投げる投手」という印象しかなく、2017年のオフに山口俊(現ブルージェイズ)の人的補償でベイスターズに来るまでは、こんなに良い投手だとは思いもしなかった。

現役時代の筆者・西森将司

なぜそこまで「平良」という投手に魅力を感じたのか

 初めて平良のピッチングを受けたのは、2017年2月の沖縄キャンプだった。

 お互い2軍スタートだったのでその時は早かった。

「よろしくお願いします」と物腰が柔らかそうな声でブルペンに入り立ち投げを開始する。

 オフシーズンにウインターリーグに参加していたということもあり、立ち投げの段階からいいボールを投げていたのを今でも思い出す。

 そして、「座ってください」というジェスチャーがあり、私もキャンプ序盤という事や、初めて受ける投手にワクワクしながらマスクを被る。

 1球目はアウトコースストレート。

 想像していたボールより遥かに球威のあるボールが私のミットに収まった。

 その1球で確信した。

『このピッチャーは二桁勝てる!』

 何よりもストレートの質が素晴らしい。球速ではなく、ホームベース上を通過するボールが、伸びもあり非常に強かった。

 いくら球速が速くても、このホームベース上を通過する瞬間に球威が無ければ、打者にとっての脅威はない。

 ブルペンが終わりいろんな人に「平良は二桁勝てるボールを投げる」、と言うのだが中々信じてもらえない。それもそうだ、だって私自身も受けるまではそう思っていたからだ。

 そのことを本人に伝えても、持ち前の性格からかニヤッと笑みを浮かべ「ありがとうございます」と少し照れている様子だった。

 実戦が始まり、平良とバッテリーを組むことも増える。

 平良という投手は捕手の思い通りに配球できる。というのも、早打ちしてくる打者には変化球でカウントを稼ぎ、最後はストレートでフィニッシュ。

 変化球を意識している打者にはストレートを中心に組み立てる。簡単なようにきこえるかもしれないが、ずば抜けたコントロールと質の高い球種があるからこそ、捕手のやりたいようにできるのが『平良拳太郎』という投手なのだ。

変幻自在のピッチングスタイル

 彼のすごいところは投げるボールだけではない。

 1つの球種に対して、3つから4つのバリエーションがある。

 例に挙げると、スライダーに関しては「大きく曲がる、横に曲がる、縦に曲がる、左肩を中にいれる(三振を狙う時)」を打者やカウントによって投げ分けている。

 特に左肩を中に入れて投げるスライダーは、右打者に向かって投げるので、打者は自分の方に向かって投げられるような錯覚に陥る。

 角度がつく分曲がり幅も一番大きく、球速、キレも一段階アップする。

 その結果、同じスライダーでも全く違う性質を持った球種に変わるのだ。

 これを全ての球種でやっているので、この時点で並みの投手では無いのは皆さんにもお分かりいただけるのではないだろうか。

 この辺は私のインスタグラムでも平良のすごさについて投稿しているので、お時間がある際に是非ご一読ください。

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