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AKB卒業生の勝ち組? 松井玲奈29歳に 独立して5年、“地味な成功”続ける仕事術とは

『エール』『浦安鉄筋家族』『行列の女神』……

2020/07/27
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《松井玲奈 まつい・れな――役者。1991年7月27日生まれ。愛知県豊橋市出身。》

 昨年4月に刊行された小説集『カモフラージュ』(集英社)の巻末の著者プロフィールは、こんなあっさりとしたものだった。職業は「女優」でも「俳優」でもなく「役者」。生年月日と出身地のデータ以外に、これまでの経歴に関する記述は一切ないのが潔くも思える。著者の情報を必要最低限にとどめたのは、何の色眼鏡もかけずに読んでほしいという意図からだろう。何も知らずにこの本を手に取った読者は、映像的な筆致で、ときに人間のフェティシズムも躊躇なく描かれるこの小説から、著者がまさか、かつてアイドルグループの中心メンバーだったとはよもや思いもしないのではないか。

 きょう、29歳の誕生日を迎えた松井玲奈が、名古屋を拠点とするアイドルグループ・SKE48を卒業してから来月で早5年が経つ。2008年に同グループの1期生として加入した彼女は、同姓の松井珠理奈とともに人気を集め、シングル表題曲で何度もセンターを務めたほか、AKB48でもシングル「10年桜」以来、選抜メンバー常連だった。

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7月27日に29歳の誕生日を迎えた松井玲奈 ©文藝春秋

「ゴキブリを見ると感情が爆発する女の子」文化祭で演技に目覚める

 卒業をラジオの深夜番組『オールナイトニッポン』で発表したのは2015年6月。その前月、松井がAKB48の横山由依と主演を務めた舞台『マジすか学園~京都・血風修学旅行~』終演後の出演者のあいさつでは、共演したほかのAKB48グループのメンバーらが素に戻るなか、松井だけが役をまだ演じ続けるようにキリッと前を見据え、何か決意したような表情だったのが、いまも筆者の記憶に残る。卒業コンサートは8月、地元・愛知の豊田スタジアムで開催された。ちょうど同日には、彼女がその年の春まで1年間あまり兼任していた乃木坂46も東京の神宮球場でコンサートを行なっており、両会場を結んで乃木坂のメンバーがサプライズで豊田スタジアムの大型モニターに登場し、松井にメッセージを送っている。ちなみに乃木坂で一緒に活動したひとり、深川麻衣とはその後、NHKの朝ドラ『まんぷく』(2018~19年)で共演を果たした。

2014年SKE48のシングル「キスだって左利き」の発表のさい、松井珠理奈(右)と

 役者になるのは、SKE48に入る前からの夢だった。ドキュメンタリー映画『アイドルの涙 DOCUMENTARY of SKE48』(2015年)のインタビューでは、SKE加入以前に劇団に所属していたと告白している。演技に目覚めたのはその少し前か、高校の文化祭での演劇部の公演だったという。ちなみにこのとき演じた役は、「普段はぶりっこだけど、ゴキブリを見ると感情が爆発して凶暴になる女の子」というから(※1)、その後SKE時代に深夜ドラマ『マジすか学園』(テレビ東京系)で演じたゲキカラというエキセントリックな役にも通じるものを感じる。