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黒田 勝弘
2017/09/02

なぜ韓国国民は北朝鮮ミサイルに危機感ゼロなのか

 韓国で戦争など有事に備えた市民レベルの避難訓練を「ミンバンウィ(民防衛)」という。民間防衛訓練の略語で毎年、数回、不定期に行われているが8月23日、北朝鮮からの“ミサイル危機”を背景に「防空訓練」として久しぶりに実施された。

 近年はもっぱら消防中心の防災訓練として、“非軍事色”が強かったが、今回はサイレンによる空襲警報で道路交通はすべてストップし、市民は一斉に地下施設に退避するという戦時訓練となった。

 ところが、まともにやっていたのはマスコミが注目するソウル都心の「光化門広場」付近などごく一部。繁華街やマンション団地などは、ほとんど「どこ吹く風」で、保守系マスコミを嘆かせていた。

 訓練は政府が自治体を使ってやるので、行政自治大臣が現場で“陣頭指揮”するシーンはあった。しかしもともと「北の脅威」には甘い左翼・革新系の文在寅政権だけに、このチンタラ風景にことさら不満は伝わっていない。

「民防衛」で避難する人たち ©Avalon/時事通信フォト

「ミンバンウィ」に国民が無関心になったのは、民主化で北朝鮮に対し敵対意識より同胞意識が強調されはじめた1990年代以降。「北の脅威」をめぐっては、最近では韓国よりも日本の方がはるかに緊張感が強い。

 韓国人は朝鮮戦争で北朝鮮からの手痛い奇襲を経験しているのに、個々人の日ごろの備えは全くできていない。家庭に非常袋は置いてないし、地下シェルターがどこにあるのかもほとんど知らない。

 周囲に「どうして?」と聞くと「いつ起きるか分からないものに備えるのはムダ。現在のことで手一杯だ。いざとなったら何とかなる」という。日本の家庭用非常袋を教えると「北との戦争は日本の大地震の可能性より低いと思う」と笑っていた。

 日ごろから韓国人は長期的対応は苦手だが、短期決戦のドロ縄的な瞬発力には妙な自信がある。あるいは「苦労を重ねてきた韓国人には“大いなる悲観は楽観に通じる”という楽天主義がある」という分析も聞く。

 当面、北のミサイルは「米国や日本向けでこちらには飛んでこない」と思っている。自分のコトと考えないのがもっとも楽だ、というのも「楽天主義」ではあろうが――。

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