文春オンライン

「ストレスはゼロだった」中国ネトゲ廃人の帝王が語る無責任生活

中国格差社会の極北の世界

2017/09/01

ストレスフリーの「ガチ廃人」の暮らし

――中国の他地域とは違って、三和のネカフェは1晩過ごしても5元(約82円)ぐらいの激安価格です。当時、ネトゲやっていた時の1日のタイムスケジュールを教えてください。

鉄牛 ええっと……、朝は8時くらいにネカフェの席で目が覚めて、前日に寝落ちしたゲームを再開だろ。で、物売りのおばはんが外から店内に入ってくるから、包子(中国パン)と豆乳を2~3元(約33~49円)で買ってそれを食いながらネトゲだろ。昼飯は食わないでずっとネトゲをするだろ。

三和のネカフェはどこもこういう店舗で路上から吹き曝しなので、物売りのおばはんたちが勝手に入ってくる。彼女らはネトゲ廃人のライフラインだ(広東省深セン市龍華新区で筆者撮影)。

鉄牛 で、夕方になったら隣の食堂で4元(約66円)のクソ安いグダグダのラーメン(通称「掛B麺」)とか、8~10元くらいの出前のぶっかけ飯を食いながらゲームを続けるわけだ。夜遅くなったらそのままネカフェの席で寝落ちして1日が終わる。

ADVERTISEMENT

――そんな毎日で、シャワーとか歯磨きとか洗濯とかはどうしていたんですか。

鉄牛 やってねえ。シャワーは1週間に1回ぐらいで、歯は磨かない。服ももともと1~2着しか持ってないし、そのまんま着っぱなし。今から考えるとあり得ないほど汚いけれど、三和では周囲もそんなやつばっかりが暮らしているし、カネかからないし。未来はないけどストレスもない暮らしだったな。もはや正常な人間とは言えないと思うが。

――いくら生活費が安くても、毎日ネトゲをやるお金はどうしたんですか?

鉄牛 ちょっとは短期の仕事で働いたりもしたよ。ただ、俺って実はネトゲの『英雄連盟(リーグ・オブ・レジェンド)』(※)が超強くて、深セン市布吉地区の最強チームメンバーに選ばれて2014年に大会に出たりもしていたんだ。
※私は『SAPIO』記事で彼が得意なゲームが『ラグナロク・オンライン(RO)』だと書いたが、『リーグ・オブ・レジェンド(LOL)』の間違いだったので本稿で訂正する。

――なるほど。最近話題のEゲーム選手だったわけですね。

鉄牛 うん。だから、『LOL』に限らず他人のゲームのレベル上げの代行とかをやると、1日に200~300元くらいのカネになった。でも、ちょっとカネが貯まるとネットバカラにぶち込んで無一文になったりして、ヤバいときは龍華公園で寝泊まりしたこともあったよ。2016年の秋になって、こんな暮らしじゃダメだと思ってネトゲもバカラもやめて、三和を出たけどな。

三和のサイバー・スラムのすぐ近くにある龍華公園。熱帯の深センは夜も温かいので一文無しになった人がよく寝ているが、スコールが降ったときは大変である(広東省深セン市龍華新区で筆者撮影)。

――ある意味、三和の暮らしも気楽にも思えますけどね。

鉄牛 確かにめちゃくちゃ気楽だけど、自分も周囲の人間も全員が人間のクズなんだ。むかしの友達や田舎の婆ちゃんに自分がいま何をやっているか言えないし、三和から一歩出ると他人との差を感じるんだよな。ふと冷静に自分自身を考えたときのプレッシャーがキツかった。あの暮らしには2度と戻りたくない。