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連載オカンといっしょ

オカンといっしょ #4 Green(前篇)

ツチヤタカユキの連載小説

genre : エンタメ, 読書

 母は泥酔すると、母親を放棄した、無法地帯のような存在になる。

「アンタのお父さんと結婚しとった頃、仕事から帰って来たらな、疲れてるから口でやれって言われて、ようフェラさせられてん」

「おい! 頭おかしなったんか? お前?」

「なってへんわ。付き合っとった頃な、外に出しとったら大丈夫やと思っとってん。でも、アンタが出来たわ。何でやろ?」

「おい、もうそんな話やめろや! マジで吐きそうやわ!」

 酔った母の口から出るのはそんな話ばかりだった。

 何度も僕は、オカンにもラジオのつまみのようなものが付いていて、チューニングを狂わせられたらええのにと思った。

「ホンマはなー、女の子が欲しかってん。一緒に買い物とかしたかったわー」

「いや、知らんがな」

「昔はアンタも女の子みたいに可愛かったのに。何でこんなんになってしもたんやろ?」

「母親がイカれとるからちゃうか?」

 ガキの頃から、夜な夜な母は、「お金が無い」と言って、よく僕の目の前で泣いた。まだ、小さかった僕はどうしたらいいか分からなかった。

 母は、僕の貯金箱を指差して言った。

「この中にいくら入ってる?」

 成長するにつれ、自分が異常な家庭で育った事が分かっていった。

 クラスメイトの親は、子どもの貯金箱の中の金を持って行ったりはしない。

「アンタ、何で全然モテへんの?」

「ほっとけや。お前に関係あらへん」

「お母さんは、アンタの年の時やりまくってたで」

「もう喋んなや! それ以上聞いたら耳が腐るわ!」

 人生で一番楽しかったのは高校時代だったと母はよく言った。

 母に無理矢理見せられた高校の卒業アルバム。中学の卒業アルバムに一枚も笑って写っている写真が無い僕とは違って、全ての写真に笑顔で写っていた。

 オカンってこんな顔で笑うねや? オレの前でこんな風に笑った事一回もないなあ。

「学生時代は良かったか知らんけど、今のお前は終わっとるやんけ」

 そう言って、母を部屋から追い出した。

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