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連載近田春夫の考えるヒット

近田 春夫
2017/09/13

リスナーの胸に突き刺さる、恐ろしき中島みゆきの声の力――近田春夫の考えるヒット

『慕情』(中島みゆき)/『ブライト』(福耳)

絵=安斎肇

 慕情……。

 といってジェニファー・ジョーンズ、ウイリアム・ホールデン主演の映画のことなんぞでは、無論ない。中島みゆき新曲タイトルの話である。

 ところで。本来“慕情”とはどんな意味だったのか? 実は昔からちゃんとは分かっていなかったので良い機会とばかり調べてみると、異性を慕わしく思う気持ちとあり、ま、大体は考えていた通りであった。安心安心。おっと、ハナから横道にそれてしまった。逸脱ついでにもうひとつ。そういえば有名な映画の題名を借りるのって阿久(悠)先生お得意だったよなぁ。はて“慕情”はどうであったか? 『雨の慕情』ならありましたですけどもね。それにしても“雨の”がつくだけで慕情の景色も随分と和風に変わるのであるから、コトバは不思議なもんである。などとあらためて感心もしたところで……。

 さて、中島みゆきである。久々新曲を耳にして思うなによりは、この人は変わらない。その一言に尽きるだろう。デビュー以来、作品に一貫するのは、なんといっても明るい笑顔のまず似合わぬことだ。

 新曲でもその基本姿勢/スタンスはキッチリと守られていた。主人公(多分女性)の――もう一度はじめからやり直せるものなら――望むことはただひとつ。あなたに尽くしたいだけ、ただただそれだけなのよと。なのであるが残念、それはもう決して叶わぬことらしい。何か事情でもあったのだろうが、行間からヒシヒシと――理由など具体的な説明こそないが――せまってくるのは、なにしろとにかくものすごぉく重~いものを背負っている感じだ。

慕情/中島みゆき(ヤマハミュージック)倉本聰氏の脚本で大ヒットしているドラマ『やすらぎの郷』主題歌。カメオ出演も話題に。

 字面を追ってみるだけでも主人公の心には“もはやとりかえしのつかない人生”への後悔の念が半端なく渦巻いているのが分かるのであるが、さらに中島みゆきに歌われると、効き目というか、リスナーの胸に突き刺さるものは、どうしたっていや増すだろう。この人の歌を聴くたび実感させられるのは、げにおそろしきはその声の力よ、ということになろうか。

 なのであるが、今回に限ってはもっと怖いものがあった。というのもジャケットには本人の写真が使われていたのだが、いったいいつの写真かわからない。もし現在の彼女の写真であるなら、おそらくは『慕情』の主人公をイメージして、色々と手を加えた結果の画像なのだろうが、何ともはや、最近の写真修正技術の進歩には眼を見張るものがある(笑)、いやマジ。是非手にとってご覧いただければと思う。

 ちなみにパッケージ中には、ポーズも気取りまくりにビシっと決まった、それはそれは見目麗しきポートレートもサービスで添えられておりますので! ご安心下さいませ。

ブライト/福耳(オーガスタレコード)オフィスオーガスタ所属のアーティストたちによるスペシャルユニット。5年ぶりの新曲。

 福耳。

 彼等が真面目に音楽を愛しているのがヒシヒシと伝わってくることだけはたしかだ。俺にはそれしか言えぬ。

今週のフライング「北朝鮮からミサイルが飛んできて、J-ALERTが北関東以北で鳴ってたらしいんだけどさ、そもそも“J-ALERT(全国瞬時警報システム)”とか“NSC(国家安全保障会議)”とか、横文字ばかりじゃ、お年寄りはわかんないよね」と駆けつけ国士・近田春夫氏。「日本国政府たるもの、ちゃんと国安会だとか漢字で略すべきだよね!」

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