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部谷 直亮
2017/09/09

2)空母の展開が攻撃時のものではない

 空母の動きからも北朝鮮への攻撃がないことは明白だ。かつてビル・クリントン大統領が「危機が起きた時に、ワシントンで誰もが最初に口にするのは、『最も近い空母は今どこにいる?』だ」と述べたことがある。空母打撃群こそが米国の武力行使の先駆けであり、その動きに注目すべきである。

 ここで理解しておかねばならないのは、限定攻撃であっても、米軍は最低でも3隻の空母を用意している点だ。実際、リビア空爆(1986年)は空母3隻、湾岸戦争は空母6隻、ユーゴ空爆は空母1隻+同盟国軽空母2隻、アフガン攻撃は空母4隻程度、イラク戦争は空母6隻で攻撃を実行している。また、ブッシュ政権末期にイラン攻撃がささやかれた際は空母3隻がペルシャ湾に集結したが、攻撃には至っていない。

 しかも、北朝鮮の防空網はイラクやリビア以上であり、相当強力だと米国の専門家からも評価を受けている。彼らの航空戦力はなきに等しいが、イラン製の新型フェイズドアレイレーダーを装備している他、ロシア製S-300のコピーとされるKN-06対空ミサイルを複数装備している。また、低空攻撃であれば、携帯式対空ミサイルや対空砲が数千門を超える数を展開している。これを叩くには最低3~4隻の空母は必要とみるべきだろう。実際、古い事例だが1969年にニクソン大統領が北朝鮮への懲罰的攻撃を検討した際は、空母4隻が投入される予定だった。

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 さて、ここで最新の9月4日の状況を見てみよう。現状で西太平洋に展開する空母機動部隊は、ロナルド・レーガンただ1隻。これではいかにも戦力不足だ。しかも、現在、展開中の空母の内、ジョージ・ブッシュはジブラルタルから地中海へと移動中。ニミッツは中東に展開中。セオドア・ルーズベルトは訓練を終了し、今後西太平洋に展開するとされるが、いまだ北米西海岸に遊弋中である。

 その他はどうか。カール・ビンソンは長期休養から復帰し、訓練を先月開始したばかりでまだまだ。エイブラハム・リンカーンも4年間もの長期整備を5月に終え、いまだに訓練中であり、まだ実戦には投入できない。ハリー・トルーマンは整備明けの訓練中で少なくとも10月まではかかる見通しである。ジョージ・ワシントン、ドワイト・アイゼンハワーは長期整備中でとても使えない。ジョン・C・ステニスは8月に改修工事を終了したが、半年は訓練が必要という状況である。

 となると、ニミッツもしくはブッシュは中東の抑えとして必要なので、直近で投入できるのはレーガン1隻だけである。1か月以内に投入できるのはブッシュもしくはニミッツ、ルーズベルトだが、これらの動きは現状ではない(ニミッツが東インド洋へと動いている兆候はあるが)。直近での北朝鮮への攻撃はまずないと考えるべきだ。