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連載オカンといっしょ

オカンといっしょ #4 Green(後篇)

ツチヤタカユキの連載小説

genre : エンタメ, 読書

 きゅるきゅるきゅる、そして、死神さえ誰かに優しくするような夜がやって来た。

「これ、うちの息子やねん」

 スナックのママは、カウンターの中に居る。

「そんな大きい息子さん、おったんやー」

 スナックのママは、まるで違う生き物みたい。蝶を食べて生きてるみたいな雰囲気。

「おい、ババア。帰るぞ」

 僕が母に向かってそう言った時、スナックの店内にいる酔っ払いがこっちに近づいてきた。

「おー、息子かー」

 馴れ馴れしく話しかけてくんな。

「お母さん、面白いなー」

 面白い? それは、息子じゃないから言えるセリフや。息子になったら、こんなもん面白くもなんともないわ。

「兄ちゃん、何か飲むか?」

「黙れ」

「ちょっと!」

 母は、僕を制しながら言った。だけど、僕は酔っ払いにこう続けた。

「喋りかけて来ないでもらえますか?」

 こんなに明るくて、すぐに誰とでも仲良くなる母親の息子が、どうしてこんな人間なんだ? って顔を店内に残して、酔っ払いはスナックを後にする。

 その顔はまるで、宇宙人を見るようだった。

 映画ではよく、宇宙人の血液は緑色で表現される。頭の中で、きゅるきゅると音が鳴っている間だけ、自分の中に流れている血液の色が緑色に変わっているような気がした。

「なんで、あんな言い方するん?」

「あんなゴミと喋っとる時間が人生の無駄やわ」

「なんでそんな言い方するん? 皆、ええ人やのに」

「知るか」

 酔っ払って帰れなくなって、息子に迎えに来てもらうような人間に何も言われたくないわ。

「なんで人と仲良くでけへんの?」

 コンビニのバックヤードから缶ジュースが補充されるみたいに、すぐに補充される新作。その補充場所は、あそこだったのか。

「あいつらなんか、オレの中では人ちゃうからなー」

「そんな言い方しな! ……そんな事よりアンタ、高校ちゃんと行ってへんやろ?」

「それがどないしたんや?」

「なんで行かへんの?」

「教師に学ぶ事なんか何にも無いからなー。アイツらがほざいとる事、将来いつ使うねん?」

「我慢しなさい」

「だいたい教科書に載るような奴に、面白い奴なんかおらんわ。教科書に載せられへんような人間の方が面白いに決まっとる」

 母は首をかしげながら、さっきの奴らと同じように宇宙人を見るような目をした。それを見て、僕らは同じ言語を話しているはずなのに、会話が成立していない事を確認する。

 きゅるきゅるという音が頭の中で鳴り、僕の血液は緑色に変わる。

「高校だけは、出なアカン」

「高校行けとかさ、それ、世の中の一番スタンダードな価値観やん? お前はそれを引用しとるだけやで? 自分の意見みたいに言うてるけど、もうそれ何も言うてへんのと一緒やわ。オレはお前の口から、今まで引用しか聞いた事ないわ。どうせ今まで何も考えんと、何の疑問も持たんと生きて来てんやろ?」

「なんで、高校ちゃんと行かんの?」

 話は再び振り出しに戻る。もういい。話しても無駄だ。いくら話し合ったって絶対に分かり合えない。価値観が違いすぎる。

 子は親を選べないし、親も子を選べない。これは全てランダムで決まる。

 それにしても、この組み合わせは最悪じゃない?

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