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木村 正人
2017/09/18

ネット署名40万人以上 スー・チー女史にノーベル平和賞取り消し危機

 ミャンマーで29万人ものイスラム教徒ロヒンギャが軍の過激派掃討作戦から逃れるためバングラデシュに避難した問題で、アウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相の発言が世界中を唖然とさせた。

「テロリストを利する偽ニュースが氾濫している」

 5日、トルコのエルドアン大統領との電話会談でスー・チー氏はそう言い放ったが、衛星写真は焼け野原になったロヒンギャの集落を生々しく映し出す。掃討作戦の死者は400人を超えるという。

 ミャンマーには135の民族がいるが、約100万人とされるロヒンギャには国籍がない。彼らは、バングラデシュから流れ込んだ「不法移民」という扱いであり、国民の9割近い仏教徒と軍は、ロヒンギャに対する差別意識を共有してきた歴史的背景がある。

 他民族と容姿が異なるロヒンギャは軍政下で格好のスケープゴートだった。移動制限、強制労働、土地没収、強奪などがまかり通り、反発するロヒンギャ武装勢力は軍との衝突を繰り返してきた。

「全ての国民の権利は保護されている」と主張 ©共同通信社

 そもそも今回の掃討作戦の引き金となったのは、8月25日にロヒンギャ武装勢力「アラカン・ロヒンギャ救済軍(ARSA)」が警察を襲撃し、十数人を殺害した事件である。過去にも大規模な武力衝突はあったが、ARSAはパキスタンでイスラム原理主義に影響され、バングラデシュで武器を調達していた。「イスラム国」が触手を伸ばしているという情報さえある。

 上智大の根本敬教授(ビルマ近現代史)は「ARSAによる襲撃で国民の反ロヒンギャ感情を利用し治安維持で活躍できる軍は喜ぶが、やり過ぎは明らか」と解説する。

「スー・チー氏が襲撃の前日に出たアナン元国連事務総長の答申に沿い、3世代続けて国内に住むロヒンギャに国籍を与える方向で軍と国民を説得しようとしていた矢先に事件が起きた」(同前)

 だが民主化の貫徹が先決として、ロヒンギャ問題に慎重なスー・チー氏に対し、国際社会の風当たりは厳しい。ノーベル平和賞取り消しを求めるネット署名が40万人以上集まり、同じく平和賞受賞者であるマララさんも「スー・チーはロヒンギャ弾圧と悲劇を非難せよ」と批判する。“民主化のヒロイン”の真価が問われている。

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