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連載オカンといっしょ

オカンといっしょ #5 White(前篇)

ツチヤタカユキの連載小説

genre : エンタメ, 読書

 その日の隠れ場所は、近所の公園の物置小屋の裏側に決めた。風が吹くたびに、木の上に生い茂っているたくさんの葉っぱが揺れている。

 隠れていると、僕はいつもあの子に見つかる。振り返ると、あの子は無言で僕を見ている。

 あの子の頬っぺたは赤みがかっていて、お花畑の絵が描いてあるワンピースを着ている。僕が着ている服には、穴が空いている。

 特にこれといって言葉を交わすこともなく、二人で歩いて学童に戻る。

 この街はちょっとしたスラムで、何十年も前に開発が止まり、昭和のままずっと置き去りにされている。

 公園から帰る道中には、廃墟のままになってるファミレスがあって、窓ガラス越しに、真っ暗な店内が見える。

 あの公園の横には、廃車になった車が捨てられている。

 次の日は、その車の中に隠れた。もうまともに走らない、ぶっ壊れた車。

 自分がもしも車だったとしたら、こんな車になるんじゃないかと、その時に僕は思った。

 もう走らないオンボロの運転席で、いつの間にか眠った僕の頬っぺたを、指でつんつんして起こしてくる。

 今日もまた、あの子に見つけられた。

 なんでいつも、見つけ出すねん。


 僕は内心、鬱陶しいと思っていた。もちろん、そんな事を口に出して言ったりはしない。僕は人と喋るのが苦手だったし、あの子もそれほどお喋りじゃなかった。

 まだ8歳の、あんまり喋らない二人が無言のまま、バッテリーが切れかけのオモチャみたいにゆっくりとした足取りで、学童に戻っていく。

 学童の中は、いつもサイが暴れた後みたいに散らかっていて、真ん中に陣取っているのは人間の皮膚で作ったみたいな肌色のソファー。

 そのソファーは、破れた所から、ぬいぐるみの中から出てくる綿みたいに、中身がちょっとだけ飛び出ている。

 そこにはいつもオバンが座っている。

「タカユキが消えてもあの子が見つけてくれるから、いつも安心やわ」

 そう言って笑った。

 オバンは、よく映画に出てくるウーピー・ゴールドバーグに似ていて、クリーム色のエプロンを付けていた。

 大人はいつも疲れてくたびれているけど、オバンだけは大人なのにいつも元気だった。

 子どもの心を持ったまま大人になったから、大人っていう感じがしなくて、一番年齢が高い、皆の友達みたいな感じ。

 ハンマーヘッドシャークみたいな石頭の大人達とは種類が違っていて、今日生まれたみたいな心で、ずっと生きている。

 遠くの国で誰かが死ぬたびに自分の事みたいに悲しんで、かき氷にかけるみぞれのシロップみたいな、大粒の涙を流した。

 おやつの時間になると、ラジカセでボブ・マーリーの音楽を流す。ボブ・マーリーは、もう死んだ黒人のオッサンで、レゲエの神様だったとオバンが教えてくれた。

 こんな音楽を作れる人がもう死んだって聞いて、僕は何だか悲しくなった。

 ある日、オバンが僕にだけこう言った。

「あの子に優しくしてあげて」

「なんで?」

「アンタの事、好きって言ってたから」