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春日 太一
2017/10/10

役者・仲代達矢 渾身のロングラン公演に挑む!

日本を代表する唯一無二の映画人であり、
伝説を作り続けてきた演劇人が、
この秋、能登演劇堂で約1ヶ月間の舞台に上る。
84歳の名優「仲代達矢」の凄味とは――。

2014年、15年に上演された『バリモア』(作:ウィリアム・ルース 演出:丹野郁弓)。実在の名優の晩年を描いた異色の作品だった

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 現在発売中の『仲代達矢が語る日本映画黄金時代 完全版』(文春文庫)は、筆者が仲代にその六十年以上におよぶ役者人生について幾多の名作映画の舞台裏を中心にうかがった、インタビュー本だ。

 取材時に気づいたことがある。撮影時に課せられた要求や撮影環境が困難であればあるほど、それを語る仲代の表情や口調は充実感を帯びてくるのである。その表情は「嬉しそう」とすら思えた。

 仲代の名を一躍世間に知らしめた小林正樹監督『人間の條件』全六部(一九五九~六一年)では、走る戦車の下に潜らされたり、雪の中で生き倒れになる場面ではそのまま雪に覆われて凍死寸前になったり。同じく小林監督の『切腹』(六二年)では、真剣を使って殺陣をした。岡本喜八監督『殺人狂時代』(六七年)では地面に無数の火薬が埋められた中を駆け抜け、五社英雄監督『御用金』(六九年)では、高い木の枝に吊るされたり、草履のまま岸壁を登らされたりもした。

 極め付けは黒澤明監督の『乱』(八五年)だ。ここでの仲代は、「NGを出したら四億円の損失になる」と黒澤からプレッシャーをかけられながら、「燃え盛る城のセットから出て、足下を見ずに長い階段を降りる」という芝居をワンカットでやっている。

 こうした命がけともいえる撮影を、仲代は「苦労」とは決して捉えていない。

「監督のどんな要求にも応えられるよう、技を磨き、身体のコンディションを整えておく。それがプロの役者の第一」

そう考えているからだ。

1993年上演の『リチャード三世』(作:シェイクスピア 演出:隆巴)。舞台上の影の形にもこだわり、紀伊國屋演劇賞を受賞。96年にも隆巴の追悼公演として再演

 困難な状況を課せられたり、無茶な要求を振られたりするほどに輝く役者。それが仲代達矢なのだといえる。