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ノーベル賞受賞 「アインシュタインの宿題」を解いたキップ・ソーンとは何者か?

あのホーキングにも「勝った」男

2017/09/26
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ブラックホールの研究「重力波天文学」とは?

 しかし今後、LIGOのような重力波望遠鏡を使って、ブラックホールの研究や未知の天体現象の発見などが進めば、その研究成果がノーベル賞を受賞することは十分ありうる。

 これまで人類は、まず肉眼で見える光で宇宙を観測し、やがて赤外線や紫外線といった、肉眼では見えない電波を使って観測することで、新しい宇宙の姿を見ることができるようになった。そしてこれから新たに、重力波を使って宇宙を見る「重力波天文学」が始まろうとしている。すでに欧州や日本などでも重力波望遠鏡の建設が行われており、まもなく稼働を始める。さらに宇宙空間にも建設しようという計画もあり、ソーンも深くかかわっている。

宇宙に建設が予定されている重力波望遠鏡「LISA」の想像図 ©ESA

 たとえば重力波を起こす天体のひとつであるブラックホールは、光をも飲み込むため直接見ることはできない。また、銀河や星の中心付近、ビッグバン直後の宇宙なども、他の観測手段では物質に邪魔されて見ることができない。しかし、物質に関係なく時空が波打つ重力波を使えば、その位置や規模などを観測することができる。

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 そして重力波で観測した場所を、肉眼(可視光)や、X線や紫外線といった肉眼では見えない電磁波を使う望遠鏡で見ることで、そこでどういう物質がどういう反応を起こしているのか、ということがわかると期待されている。

ニュートリノと重力波で宇宙をもっと観測できる

 また、ノーベル物理学賞といえば、2002年に日本人の小柴昌俊さん、また2015年に梶田隆章さんが受賞した、「ニュートリノ」の研究を思い出す人も多いかもしれない。実はこのニュートリノも、重力波と同じように目では見えないが、特殊な装置を使うことで見ることができ、そして宇宙観測の手段として利用することができる。重力波を出すような大質量の天体は必然的にニュートリノも放出するため、同時観測による新たな発見が期待されている。

 可視光と電磁波、そしてニュートリノと重力波と、さまざまな手段を駆使して宇宙を観測することで、まるで料理を舌だけでなく、五感すべて使って味わい尽くすかのように、宇宙のことをより深く知ることができる。私たちはもうすぐ、今まで誰も見たことのない宇宙の姿に出会おうとしている。そこには想像を絶する未知の世界が広がっていることは間違いなく、そして人類はいよいよ、宇宙誕生とその進化の歴史の謎に迫れるかもしれない。その意義と可能性は、ノーベル賞の受賞云々よりもずっと大きなものである。

ノーベル賞受賞 「アインシュタインの宿題」を解いたキップ・ソーンとは何者か?

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