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勉強にはやっぱり「哲学」が必要だ――山極壽一×千葉雅也 #1

ゴリラ研究の第一人者と気鋭の哲学者が語り合う

 2014年に京都大学総長に就任した山極壽一氏(65)は、コンゴの森などでゴリラの中に分け入って研究を続けてきた霊長類学者だ。一方、千葉雅也氏(38)は仏哲学者ドゥルーズの研究を専門とする哲学者。今年4月に上梓した『勉強の哲学』は、東大、京大を中心に哲学書としては異例の5刷、4万5000部と版を重ねている。その千葉氏と勉強法に関する著作もある山極氏が、勉強の本質について語りあった。

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山極 千葉先生の『勉強の哲学』が、我が京大や東大の生協で月間売り上げナンバーワンらしいですね。

千葉 いえいえ……。ただ「勉強」という、普遍的ではあるけれど、地味なテーマの本がここまで支持されたのは意外でした。

山極 いまや京大生も東大生もどんどん勉強をしなくなっています。今日は話題の哲学者と、勉強という行為を見つめ直すようなお話ができるのを楽しみにしてきました。

千葉 まず僕が『勉強の哲学』を書こうと考えた背景について少し説明をさせてください。

 ネットを介したコミュニケーションが発達したことで、最近の大学生は周囲との同調圧力を一層強く感じています。空気を読み、周りに合わせ、似たものをみんなで好きになっていく。さらに「好き」という感情、「楽しい」という経験をSNSでシェアする。そういう“ノリ”を楽しみ、そのノリからズレないための術を身に着けようと必死です。こういった社会の中で、専門分野の知識を深めたり、世界や社会の別のあり方を考えるといった「勉強」をするには、勇気を持ってノリの空間からあえて一度“浮き”、排除される立場に自分をさらすことが必要だと思うんです。

千葉雅也氏(立命館大学准教授) ©文藝春秋

山極 なるほど。僕もノリの世界から一歩脱する必要があるという点には全面的に賛成しますね。

勉強には「三段階」ある

千葉 本来、コミュニケーションの中で相手と波長を合わせたり、集団内の暗黙のコードを読み取るという行為は、共同体の中で生きていくために必須のスキルです。ただ、現在はそれが過剰になっており、勉強すること、つまり自分の世界を深めることの妨げになっている。

 そのことを踏まえ、僕の本では勉強には「三段階」があると説明しました。第一段階が、単に周りのノリに合わせているだけの段階、そこから勉強をしてわざと周囲から“浮く”のが第二段階。その“浮き”を持った上でノリの中に戻っていくことを第三段階と規定し、勉強においては、最終的にはその第三段階を目指すべきだと書きました。

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