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連載近田春夫の考えるヒット

近田 春夫
2017/10/03

J-POPのレベルを一段上げた、福山雅治の素晴らしい仕事――近田春夫の考えるヒット

『聖域』(福山雅治)/『ミスターカイト』(スキマスイッチ)

絵=安斎肇

 福山雅治二年ぶりのシングルはTVドラマ『黒革の手帖』の主題歌でもあるが、番組を一度も観ておらず、楽曲との関連などは一切分かりかねる。そこはまずお断りしておく。

 調べるとショートバージョンがアップされていた。資料の届く前にとりあえずと思い、再生を開始した私は、大変なインパクトを受けた。

 のっけから――昔でいえばテープの逆回転を用いて出すような――摩訶不思議な音が耳に飛び込んでくるや、何度か確認しないことにはプロでも口ずさむのが困難な、複雑な譜割りのホーンがすかさず炸裂! という、まさに“めくるめく展開”にあっけにとられる間もなく、一瞬ビートを見失いそうにもなるトリッキーな仕掛けと共に、畳み込むように歌が入ってきたからである。

聖域/福山雅治(universal)ガットギターの音色とニューオーリンズジャズにインスピレーションを得たとのこと。

 これまでの福山雅治のシングルではまず味わったこともない“音そのものが刺激”という事態に、たまらず知りたくなったのが、このサウンド(曲ではない)の作り手のことなのであった。すなわちこれ編曲誰よ? そこで端末に「福山雅治 聖域 編曲」などと単語の羅列を打ち込んでみたのだが、探せど探せどアレンジャーの名前は結局出て来ず仕舞いであった。

 少し話はそれるが、最近ネットで作品のデータチェックをしていて思うことがある。今回に限らず編曲者の名を発見出来ぬケースが増えてきている気がしてならないのだ。いや、単に俺の検索のやり方に何か問題があるだけのことならばいいんですけど……。いずれにせよ、世界のポップミュージック界を見渡したとき、今やメロディなんかよりサウンドデザインの方が、作品の魅力という意味では大きく力を持つ場合も珍しくない時代に入ってきているといって異論はないと思うのよ。そうした潮流のなか、この国でjpopが評論されるとき、アレンジなど「音」について話題の及ぶことのあまりないのは何故なのだろう?

 さて、ようやくCDも家に届き、無事編曲の欄に本人並びに井上鑑(あきら)の名を確認出来た次第の俺であったが、残念なのは、この表記では二人の役割分担の分からぬことである。井上鑑と共に二人で五線紙にスコアを書き上げたということなのか、本人の大まかな、いわゆるヘッドアレンジを、井上鑑が職人としてカタチにまとめたのか? 俺が知りたかった、とどのつまり“このサウンドは本質誰の作ったもの/アイデアなのか”はクレジットからでは判読不能であったが、たといそうだとしても『聖域』が作曲家、作詞家、そして歌手/音楽家(この録音での各種楽器本人演奏の素晴らしさよ!)福山雅治の力量を十二分に実感させてくれる、高度な出来栄えの作品であることは、間違いのない事実であろう。この曲はjpopのレベルを一段上げたと思う。

ミスターカイト/スキマスイッチ(universal)新海誠も発売を待ち望んでいたとツイートする、ファンには有名だった一曲。

 スキマスイッチ。

 方向性こそ違え、こちらもまた音楽的に意義深い、楽しみどころの多い作品である。今週の二曲は充実していた。

今週のゴホン「中国人の若者が他人のポイントで龍角散を転売目的で70万円分騙し取ったってニュースを読んだんだけどさ。中国ではPM2.5の大気汚染によく効く“神薬”として人気があるんだそうだね。龍角散の方はその人気を売りにしているように見えないのがエライ」と近田春夫氏。「なんにしても、そんなに効くならこの冬オレも試してみたいです」