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“いい人だけど悪役”ピエール瀧が語る「人生を生きるヒント」

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 目の前に座っているのは、どうみても人の良さそうなオジさん。でもその笑顔の奥に「とんでもない悪人」が潜んでいるかもしれないと考えさせられてしまうのが、ピエール瀧という役者の魅力だ。

“登場人物全員悪人”、バイオレンス・エンターテインメントと銘打ち、大ヒットを記録した『アウトレイジ』シリーズの最終章。物語の発端のトラブルを作り、狂言回しの役をつとめるのが、ピエールさん演じる花菱会の直参幹部・花田だ。

「花田は、暴走族から成り上がってきたやくざ。西田敏行さん演じる西野はやくざ然として筋金入りだけど。西野みたいな人間の器を重視する古いタイプのやくざではなく、お金に翻弄される現代のやくざを象徴しています。花田の行動は、まるで落語みたいですよね」

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 北野作品には初参加。

「断れる仕事ではないと思いました。ただ、どういう形のイエスでいくか、加減が分からない。映画の雰囲気、ムード、テンション、すべて想像もつかないですから。自分のカバンをあけて中味をさらけだすしかないと思いました」

 全身の刺青メイクに毎日8時間かかったが、北野作品は早撮りで有名。ほぼワンテイクで撮影終了していく。

「武さん相手に演技を選んで吟味するヒマもない。これですかね? と提示するしかありませんでした」

 花田はろくでなしのやくざだが、なぜか憎めないところがある。ピエールさんは映画『凶悪』(2013)で演じた悪役でも愛嬌を感じさせた。インタビュー中の表情や口調は明らかに善人で、どうにも実体が見えない。実は次回作も悪役を演じることが決まっているそう。

「顔に正義感がないからですかね? お腹ぽっこりの赤ちゃん体型だから、どんな悪役をしても憎まれないんでしょうか? でも、悪役はのびのびできて楽しいです。どうせやるなら極端なほうがいい。パンクバンドと同じです。想像の範囲の外、徹底的なほうがおもしろい。そういう意味ではベクトルのふり幅が違うだけで、悪役っていうのはヒーローを演じるのに近いのかも」

 テクノバンド「電気グルーヴ」としてライブに出れば観客を熱狂させ、週に1度はTBSラジオ「たまむすび」のパーソナリティとしてリスナーをほっこりさせる。家に帰れば家族と仲良し。そんなところは善人そのもの。

©2017『アウトレイジ 最終章』製作委員会

「インディーズ出身のたたきあげですから。身の丈以上のことをすると、痛い目をみる。運がいいとき、うまく回っているときに増長しないように気をつけてます。もともとないものをテーブルに乗っけると倍返しになって返ってくる。背伸びせずにやれば誤解を受けなくて済むのかしらん、と思ってます」

ぴえーるたき/1967年、静岡県生まれ。1989年、「電気グルーヴ」結成。2013年の『凶悪』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞はじめ数々の映画賞を受賞。近年の出演作は『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『シン・ゴジラ』(2016)、『怒り』(2016)、『海賊とよばれた男』(2016)、『孤狼の血』(2018)。

INFORMATION

『アウトレイジ 最終章』
監督・脚本・編集:北野武
出演:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省 他
10月7日から全国公開
http://outrage-movie.jp

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