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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/10/10

怪しげなインド人が作る“納豆カレー”をミャンマーで食べてみた!――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴

 ミャンマー北部の町ミッチーナで納豆取材をしていたときのこと。

 現地でも珍しい、「竹納豆」を偶然入手した。知り合いになった納豆売りのおばさんが「お土産に」と言ってくれたのだ。発酵させた納豆を、傷まないように塩と唐辛子と一緒に竹に詰めたという。

 喜んだ私のすぐ横に、なぜかたまたまインド人の経営する食堂があった。

「あ、ここでこの納豆をカレーにしてもらおう!」と思った。以前、どこかで「インドでは納豆をカレーに入れる」と聞いたのをふと思い出したのだ。

竹納豆

 行き当たりばったりでは右に出るものはいない私は、さっそく店に入った。店主らしきインド人(三十代の男性)に「この納豆をカレーに入れてくれる?」と訊いた。すると、いかにもフレンドリーな感じの店主は「オーケー、どんなカレーがいい?」とそこまで英語で言うと、いきなり「鶏肉? 豚肉?」と日本語で訊いた。

「え、日本語を話せるの?」と驚いて訊くと、「ノー。日本語は知らない」と涼しい顔。「鶏肉」と「豚肉」だけどこかで憶えたらしい。それにしては発音が正確で、自然な話しぶりのように思えたが。

謎のインド人

 ちょっとヘンな気はしたが、ともかく「鶏肉カレー」を頼んだ。しかし、彼が怪しいのは言語だけではなかった。私が竹筒から取り出した納豆を不思議そうな面持ちで眺めている。

「作れるの?」と訊くと、「あ、大丈夫、大丈夫」と早口で言うのだが、その「大丈夫」は昔、インドで商人やリキシャーの運転手に騙されたときにさんざん耳にした「大丈夫」によく似ていた。

 そういう怪しいインド人同様、この店主も私が疑いだした途端、急に動きが速くなり、口を挟む隙を与えず、大鍋から作り置きのカレーをすくってフライパンに入れ、そこに納豆をドカンと投入した。カレーは予想に反してインド風ではなく、脂っこいビルマ風のようだ。

 こんな調理法でいいのかと首をひねったら、それを見透かしたように、彼はくるっと振り向くと、にやっとして言った。

「結果は、どうなるか、わかりませーん!」

 完璧な日本語だった。

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