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赤坂 太郎
2017/10/10

「安倍一強」に挑む「小池劇場」の成否

次々と手を打つ小池、裏切られた公明党、守勢に回る安倍の行方は……

「国難を乗り越えるために、どうしても今、国民の声を聞かなければなりません。相当厳しい選挙になることは覚悟しています」

 9月25日夕刻。ついに伝家の宝刀を抜いた首相・安倍晋三は、この審判を「国難突破解散」と銘打った。

 だが、ここに至る水面下で、官邸と公明党・創価学会が凄まじい攻防を繰り広げていたことはほとんど知られていない。

 日頃から早期解散を進言してきた副総理兼財務相の麻生太郎に、安倍が私邸で解散の決断を伝えたのは9月10日、日曜日の夜だった。翌11日。安倍は公明党代表の山口那津男と会談し、「場合によっては臨時国会中に解散することも検討しようと思います」と耳打ちした。だが北朝鮮情勢も見通せない中、あえて曖昧な言葉を選んだ。山口はよもや冒頭解散と思わぬまま、翌日、プーチン大統領側近のマトビエンコ上院議長らとの会談に向けてモスクワへ飛んだ。公明党・創価学会が総選挙に向けて慌ただしく動き始めたのは、4日後の16日。このタイムラグは何を意味するのか。

党首会談に臨む公明党の山口代表と安倍首相 ©時事通信社

 山口が機上の人となった直後、官房長官の菅義偉は、密接な関係を築いてきた創価学会副会長(選挙担当)の佐藤浩に、臨時国会冒頭にも解散する可能性を密かに伝えた。森友・加計問題で守勢の選挙を余儀なくされると踏み、公明党の支持母体である創価学会の全面支援が不可欠と考えたからだ。

 一部メディアは「公明党は改憲論議を先送りできるため、この時期の解散を歓迎した」と報じたが、実態はまったく異なる。

 安倍内閣の支持率が森友・加計学園の問題で急低下し、都議選で自民党が惨敗した頃から、公明党・創価学会はこんな目論みを抱いていた。

〈自分たちとは肌合いが異なるタカ派の安倍には来年9月の総裁選で退いてもらい、新しい首相の下で秋から年末の解散に持ち込む。これならご祝儀相場の新内閣の下、国民に信を問える〉

 だから当然、佐藤は菅に激しく抵抗した。「冒頭解散などあり得ない。選挙準備が間に合わないし、大義名分もない」、「7月の都議選で全国の学会員を動員して戦ったばかりで、半年は休息期間が必要だ。選挙は早くても年末にするよう首相を説得してほしい」。

 さらに佐藤は自民党幹事長の二階俊博らに直談判し「今解散となれば、創価学会の支援は限定的になりかねませんよ」と強く牽制した。

後付けの理屈を吹聴

 この時期の解散に反対だったのには、もう1つ、表立って口にできない根源的な理由があった。集団的自衛権の行使を一部容認する憲法解釈の見直しに、無理やり付き合わされた3年前の恨みは今も燻ぶる。総選挙で勝利し、「改憲のお墨付きを得た」とされてはたまらない。公明党執行部は、安倍が掲げる改憲、とりわけ9条の改正に踏み込みたくないのが本音なのだ。

 だが、創価学会の強硬な反対にも、安倍は1歩も引かなかった。二階ら自民党幹部にも冒頭解散の不退転の決意を伝え、力ずくで押し切ったのだ。

 もう1つの見逃せないファクターが北朝鮮情勢だった。

「年末から年明けにかけての向こう半年が重大な局面になります。北朝鮮は射程1万キロ超の大陸間弾道ミサイル(ICBM)『火星14号』をハワイと米本土の間の太平洋深奥部へ撃ち込み、さらなる核実験にも踏み切ると予想されます。そうなれば、米朝関係は最大のヤマ場を迎えます」

 安倍はこの間、外交・防衛当局から北朝鮮の動向予測の極秘報告を受け続けた。他方、2019年10月に消費税率を10%に引き上げるには、来年中の制度設計や法改正が不可欠だ。当然政権には逆風となり、支持率は下降線を辿るだろう。何より、選挙による禊ぎで森友・加計問題に終止符を打たなければ、いつまでも野党やマスコミの攻撃にさらされることになる。

 安倍にとって、北朝鮮情勢が緊迫していく流れは、格好の口実になった。

「北朝鮮問題が長引く見通しで、今後、ロシアや中国に対して強く出なければならない場面が増えるのに、『安倍政権はどうせ長くはない』と足元を見られては外交交渉などできない。北朝鮮情勢がさらに緊迫すれば、解散の機会は永遠に失われてしまう」

 安倍は解散表明後、会う人ごとに、そんな後付けの理屈を吹聴した。