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連載松尾諭「拾われた男」

松尾 諭
2017/10/15

松尾諭「拾われた男」 #8 「初めてのCM、横浜の大きな倉庫でタイヤと共演した日」

 何かに選ばれるというのは時に喜ばしいことではあるが、自ら求めて選ばれるというのは難しいものである。学生時代に唯一自ら求めて選ばれたのは、高校2年の時、スキー合宿という名の修学旅行の実行委員長という役職だった。しかしこれにはろくな思い出がない。多岐にわたる実行委員長の仕事の中で特に旅のしおりの作成に力を入れたのだが、担当教師の許可もとらずに表題を「雪崩」とつけて300部も刷ったところ、教頭をはじめとする先生方から厳しくお叱りを受けた。

ブロンドの女性の素っ裸の無修正映像が大写し

まつお・さとる/俳優。1975年生まれ。10月20日配信スタートamazon プライム「日本をゆっくり走ってみたよ〜あの娘のために日本一周〜」(毎週金曜更新)に出演します!

 旅の前夜には、出発前に全校生徒の前で発する挨拶を夜遅くまで考え、旅の準備もそこそこなまま迎えた翌朝、居間のビデオデッキで深夜に予約録画していた海外ドラマ「ビジター」がちゃんと録れているかを確認すべく再生すると、テレビの画面には「ビジター」には出てこないブロンドの女性の素っ裸の無修正の映像が大写しになった。何が起こったのかわからないながらも本能的にリモコンの停止ボタンを押したが、すぐさま父の「なんやそれ!?」という声に即座に言い訳も出ず、「貸せ!」という言葉に抵抗することすらできずに取り出したテープを渡した。部屋に戻って何が起こったのかを整理してみると、どうやら間違ってエロビデオの上から「ビジター」を録画してしまった事までは理解できたが、あまりの事態にそれ以上は考えが及ばなかった。家を出る前に気の利いた言い訳は何かないかと考えを巡らせるうちに、時間は刻々と過ぎ、混乱したままの荷造りはさらに時間を要し、学校に着くと生徒たちは校庭で整列して実行委員長の到着を待っていた。結果、考えに考えた挨拶の代わりに「遅刻してすんませんでした」と朝礼台の上から謝罪した。

 旅行中も常にエロビデオの事を考える羽目になってしまい、考えたところでどうしようもなかったが、とにかくいくつか言い訳を用意はしたものの、どれも無理のあるものだった。ただ、よく考えてみてわかった事は、あの一瞬見たブロンドの女性、あんなエロビデオは見たことなかったし、そもそも洋物は持っていない、という事だった。

 旅を終え、家に帰ると、父はそれについて一切言及はしなかった。不審に思い、その件を兄に相談してみると「それお父さんのちゃう?」と彼は言ったが、西洋かぶれだった兄の言葉はいまいち信用ができなかった。結局真相はいまだにわからない。