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森岡 英樹
2016/04/02

大手商社の巨額赤字を生んだ国際会計基準

source : 週刊文春 2016年4月7日号

genre : ビジネス, 企業, マネー

安永竜夫三井物産社長は32人抜きで就任
Photo:Kyodo

 日本を代表する大手商社の決算が世間を驚かせた。三菱商事と三井物産は、2016年3月期の連結純損益で巨額の赤字を計上すると発表した。三菱商事は1500億円、三井物産は700億円の最終赤字に落ち込む見通しだ。

 その理由は資源価格の下落にある。三菱商事と三井物産は「資源商社」とも呼ばれるほど資源依存度が高い。この2社ほどではないが、他社も資源価格の下落に伴う減損を余儀なくされ、大手商社5社の減損合計額は1兆円規模に及ぶとみられている。

 問題は、そのブレ幅の大きさだ。三井物産の税引き後利益の予想は当初2400億円の黒字だった。差し引き3100億円もの利益が減った計算となる。

 こうした巨額赤字の背景にあるのが、IFRSと呼ばれる国際会計基準だ。

 大手商社は2014年にかけて、相次いでIFRS導入に踏み切った。

「数百社もの関連会社を抱え、グローバルに展開する商社にとって、導入は至上命題だった。IFRSは、M&Aや投資に有利に働く会計基準で、いまや投資会社とも言われる商社にはメリットも大きかった」(金融関係者)

 一例をあげれば、企業買収に伴う「のれん」の償却ルールが従来と大きく変わることになった。のれんとは、企業ブランドや開発力といった目に見えない企業価値を指す。これを金額換算して、帳簿に載せるが、従来の日本の会計ルールでは最長20年で定期償却しなければならなかった。

 ところが、IFRSでは、定期償却の必要はなく、買収時に計上したのれんをそのまま資産に計上できる。

「M&Aを行って、のれん代を計上すれば、それだけ業績を押し上げる効果がある」(同前)

 もちろん、いい事ずくめではない。IFRSでは毎期、厳格な減損テストが義務付けられている。投資資産の収益性が大幅に低下した場合、一挙に巨額の減損処理が必要になる。三井物産、三菱商事が共に創業以来初の赤字決算となった主因は、会計制度の変更にあったのだ。

 ただ、一方で、価格が回復すれば今度は「戻り益」が生まれる。資源価格が安定・上昇すれば、三菱商事、三井物産のV字回復は間違いない。