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山本 一郎
2017/10/12

消耗するけど独特な夏休み

 ただ、長男は何度も熱を出します。さっきまで元気だったのに、夜になると赤い顔して布団をかぶって寝る長男。夜に悪寒がするといって高熱が出るたび、夫婦で手分けして徹夜しながら小児科救急に連れていき、すーっと熱が下がっては「この熱は何だったんだろう」と首を傾げる日々。特に誰かに感染るものではないと診断されていたのですが、精密検査をしてみても病因がよく分かりません。夫婦で困惑しつつも朝は寝ないまま親父お袋の介護に、お昼は子供の宿題に、夕方は習い事や科学博物館に、という日々は、消耗するけど独特な夏休みで、いかにも山本家らしい過ごし方だと割り切っておったのです。

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 何かあっても、行きつけの病院にすぐに行けるように、ということで、どうしても、病院の近所でやっている科学博物館の「深海展」にはヘビーローテーションになります。結果として、この夏23回お伺いしたでしょうか。大変お世話になりました。もはやどの展示がどこにあるかも子供たちは記憶するようになり、長男は深海探査艇に、次男は東日本大震災発生のメカニズムに、三男は地中深くまで掘削して行う調査に、強い関心を示すようになりました。

 4歳になる三男に地球の気候変動について質問されても、残念ながら私には知識がありません。もう少し子供らしい興味の持ち方はないのかと感じなくもありませんが、ビジュアルで分かりやすく繰り返し興味を持って見ていくと、子供はいろんなものを見て、感じて、吸収するようです。家に帰ってみると、やはり去年何度も足を運んだ「海のハンター展」で買ったサメの図鑑を引っ張り出し、海の生物の化石をスケッチしています。そうか、そんなに深海が好きか。科学博物館と、NHKの偉大さを知りました。ありがとう、科学博物館。ありがとう、NHK。年パスでも受信料でも十年分前払いしたいぐらいです。

山本家の一コマ

長男の高熱が下がらなくなった

 夏休みも終盤に近づいた頃、出ては引いていた長男の高熱が下がらなくなってしまいました。普段は元気印の長男が腹痛を訴えてずっと呻いており、心配でしょうがない次男や三男も火が消えたように静かにしています。さすがに様子がおかしい。あまりにも痛いのか深夜に泣き出して、仕方なく午前3時にタクシーを拾い、何度めかの深夜の救急にお世話になりに行きます。また、すっと熱が引いてくれることを信じて。夏休みも終わりそうだし、また午後どっか行こう。

 しかし、腹痛は治まっても、熱は下がりませんでした。何かがおかしい。家内もそう判断し、担当してくれた医師も追加の精密検査を勧めてこられたので、真っ赤な顔でぐったりした長男はそのまま入院することになってしまいました。付き添いをする親として、替われるものなら替わってやりたい心情で張り裂けそうになりながらも、点滴をされ静かな寝息を立てる息子のそばに座っている以外にできることはありません。

 

 家内も心配が尽きないものの、次男三男の生活もあり、また介護も慌ただしい状況で、夫婦で手分けしてどうにか乗り切ろうと決心するわけです。闘病は本人も相当大変ですが、いつ快癒してくれるか分からない家族と向き合って暮らしていくのはキツいのです。病状に一喜一憂しても周辺がアップダウンで疲れるだけ、というのはがん闘病中の父親の、一気にしぼんでいく背中を見ていれば嫌でも理解させられます。

 それでも、本当に苦しいときには家族しかいないのです。隣の病室で、夜に一人「ママ、ママ」と叫ぶ子の声が廊下に響き、容態が急変した子を慌ただしく運び出す看護師さんの必死さが伝わってくると、具体的には何もできなくてもそばにいてやれることで少しでも本人の気持ちの支えになれば、と願う気持ちで一杯になります。我が家の長男だけじゃなくて、この部屋にいる、この病棟にいる子供全員が元気に退院できる日が来てほしいと、病室に付き添いで泊まる夜は祈るのです。