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近藤 奈香
2017/10/16

メイ首相“史上最低の演説”でほくそ笑む「あの男」

 10月4日、英国のメイ首相が保守党大会の最終日に行なった演説は、史上稀に見るほど“悲劇的”なものとなった。

 冒頭、6月の総選挙で保守党が過半数獲得を逃したことを詫びたメイ氏。ここから力強く施策を語るはずだった。

 ところが、1人の男性がメイ氏に近寄り、「ボリス・ジョンソン外相からです」と、“解雇通知書”を突き付けたのである。この男性は、コメディアンのサイモン・ブロドキン氏(直後に逮捕)。解雇理由には「力強さに劣る」、「不安定」と記されていた。

 これに対してメイ氏は、「クビにしたいのは労働党の党首コービンよ」と何とか切り返したが、この後、咳が止まらなくなり、声もかすれ、スピーチを何度も中断。

 見かねた財務大臣がのど飴を手渡すと、咳の合間に涙目で「財務大臣がタダでモノをくれた」と、ジョークを飛ばして、懸命に話し続けた。

 すると今度は、背後に掲げられていた党大会のスローガン〈Building a Country that Works for Everyone(全国民に役立つ国造りを)〉の文字が次々と落下……。

 さすがに、同情した議員たちから声援の拍手が送られたが、メイ氏の演説内容が誰の記憶にも留まらなかったことは想像に難くない。

警備態勢の甘さを問う声も ©共同通信社

 今回の事件は、党内や国民の支持が風前の灯となっていたメイ政権、そしてブレグジット交渉にも大きな打撃だ。

 演説の2日後にはシャップス元保守党議長が党首選を実施すべきだと述べ、“メイ降ろし”の動きが表面化した。

 こうした動きの背後にいると見られるのが、前述のコメディアンが名前を出したボリス・ジョンソン氏だ。

 当初のハードブレグジットから、より現実的なソフトブレグジット(単一市場や関税同盟へのアクセスを可能な限り残す)に舵を切るメイ政権に対して、ハードブレグジット派の筆頭であるジョンソン氏は、EU離脱交渉に幾度となく口先介入を行っている。

 直近では、サンデー・タイムズ紙の記者が著書で、“総選挙直後にジョンソンを含む3人の閣僚が、メイを降ろして、ジョンソン首相誕生を画策した”とも暴露している。

 当のジョンソン氏はメイ氏の演説後、党の結束を訴えたが、「道化師(トリックスター)」の血が騒ぎだすのは時間の問題か。