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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/10/17

元首狩り族の「超熟納豆」はこれまで食べた中で最も強烈だった!――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴

 ミャンマーとインドが接する国境地帯は深い密林と複雑な地形が重なり、ごく最近まで「アジア最後の秘境」と呼ばれた。そこに住むナガ族はかつて首狩りの風習があったことで知られる。村によっては一九九〇年代まで行っていたようだ。私の会ったおじさんは「若いとき、俺は二人首を狩った。一人は水牛の代金を払わなかったから、もう一人はイトコが首を狩られたからその復讐にね」と気さくに話してくれた。

 もっとも実際には「ナガ」とは一つの民族ではない。言葉も文化も全く異なる二十以上もの「部族」の総称だ。彼らには共通の文化が二つだけある。一つは首狩り、そしてもう一つが「納豆」。そう、ナガの人々はアジアでも屈指の納豆大好き民族なのだ。

 昔の日本を含めて、アジアの納豆民族は冬にしか納豆を作らないところが多い。ところが、ナガ族は一年中、ずっと納豆を作り、食べ続けている。しかも彼らの納豆は独特。

ナガの熟成納豆。おそろしく美味

 納豆は十度以上の常温では長持ちしない。腐敗菌がついたり、発酵が進みすぎてどろどろに溶けてしまったりする。だから保存用に塩や唐辛子と混ぜたり、寒いところや冷蔵庫にしまっておくのだが、ナガの人たちはそうしない。作った納豆を葉っぱに包んで囲炉裏の上に置き、煙をあてておく。一週間経つと、葉っぱを取り替え、やはり囲炉裏の上に置く。すると、煙の殺菌効果のせいか腐ったりせず、ひじょうにマイルドに発酵が進み、味も香りもほんわかする熟成納豆ができあがる。この納豆で作る汁物は絶品だ。里芋と豆の納豆汁は驚くことに納豆の味が全然しない。その代わり、上質の昆布ダシのようなうま味が効いている。日本人なら誰しも「美味い! でもこれ、何でダシとってるの?」と思うはずだ。

元首狩り族ナガの人々

 ある村では菜の花の納豆汁を御馳走になった。菜の花は黄色い花をつけたまま、茎を手でへし折り、鍋に押し込む。ずいぶん荒っぽい。食べようとすると、茎が固くて噛み切れない。せっかくの旬の野菜なのに、しかたなく外へ吐き出してしまった。がっかりしたのは私がこの料理のなんたるかを知らなかったからだ。あらためて汁を飲むとびっくり。菜っ葉の甘みと熟成納豆のうま味でハッとするほどの美味しさなのだ。ナガ族、首狩りのかたわら、こんなに上品な納豆汁を開発していたとは恐るべしである。

ナガの納豆汁