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麻生 幾
2017/10/14

【極秘シミュレーション】金正恩の核が東京を襲う日 #1

爆心地では70%の人が即死、20%が2カ月以内に死亡する

 2011年3月15日。福島第一原子力発電所で爆発が起こり、放射性物質の大気への拡散が本格的に始まっていた。当時の首相官邸は、その拡散状況を国民に知らせることができなかった。一方、米国のエネルギー省が独自調査の結果、〈高濃度放射性物質が北西へ重点的に飛散〉とする拡散予想モデルを日本の外務省ほか、各機関に伝達していた。

 しかし、その裏で、米軍による別の極秘調査の結果が防衛省ほか、複数の機関に届けられたにもかかわらず、官邸に報告されていなかったことはまったく明らかにされていない。

 その調査結果の発信元は、略称「DTRA」。日本語にすれば「米国防脅威削減局」。VXガスなどの化学兵器、天然痘ウイルスなどの生物兵器、そして核爆弾など大量破壊兵器による攻撃から、米国と同盟国を守るための作戦の立案と遂行に徹した部局である。

 DTRAは国防総省の数ある部局の中でも、最も重要な存在とされている。なぜなら、任務の神髄は、大量破壊兵器による攻撃を受けた後も“国家を存続させる”ことだからだ。特に、外国やテロ集団からの「核攻撃」に対しては、いかに備え、対抗し、その脅威を破壊するかが任務の根幹である。「核攻撃」は、経済、政治、社会という、国家として成り立っている機能を崩壊させてしまうからだ。

アメリカ国防総省 ©iStock.com

 6年前、DTRAは、無人偵察機などを駆使して原発から放たれる核物質の情報を収集し分析。その結果、前述のエネルギー省のものよりさらに詳細なデータだけでなく、12時間ごとに、首都圏が「核物質の雲」に徐々に覆われていく予想モデルも防衛省など一部の政府機関に伝達していた。

北の“脅威の再評価”

 本稿は、当時の官邸の判断や動きを検証することが主旨ではない。国家的緊急時であった東日本大震災のころ以上に、DTRAの存在が、ここ数カ月、日本という国家の存続に重要なものとして再び急浮上している、そのことに大きな関心を寄せたいからである。

 米軍関係者によれば、DTRAの存在が、日本の安全保障の正面に、かつ密かに浮上したのは、昨年8月末のことだった。北朝鮮の軍事力が、これまで評価されてきたレベルを遥かに超えるものになったとDTRAが分析したからだ。

「明らかに、北朝鮮による『核攻撃』の脅威評価がDTRAの中で切り替わった。もちろん、脅威は現実的なものとして危機感が高まった」(米軍関係者)

 そして、日本政府機関に、“脅威の再評価”が極秘に伝えられた。

 いったい北朝鮮のなにがDTRAを“脅威の再評価”へと突き動かしたのか。その答えは後述するが、そもそも北朝鮮の核兵器の脅威が国際的に叫ばれて久しい。DTRAが、北朝鮮の弾道ミサイルを本格的に脅威と評価し始めたのは、同関係者によれば、2008年弾道ミサイル発射実験からであった。DTRAの脅威判断を受けた米国防総省は、京都府北部、日本海に面した経ヶ岬に、北朝鮮の弾道ミサイルに対応するレーダーを配備するように日本政府に強力に要請した。現在、北朝鮮が弾道ミサイルで米本土を攻撃するコースとなる真下で、レベルを高めたレーダーが稼働している。

 2016年に入って北朝鮮が核爆弾とミサイルの開発に集中した軍事活動を活発化させたことから、DTRAは、国防総省統合情報本部やCIAなどからの情報も合わせて分析した。その結果が、対北朝鮮の作戦正面部隊である米太平洋軍にも伝達された。

 その分析結果とは、米太平洋軍関係者の話によれば――。

〈統合情報本部は、2016年に入って北朝鮮は、ミサイルの弾頭部分に装填できるほどの核兵器の小型化に成功と判断。しかし、大気圏の再突入を伴う、数千キロ先のターゲットを狙う弾道ミサイルとしての技術レベルにはない。現在の技術で行えば、再突入時にミサイル本体は破壊されてしまう。しかし、統合情報本部が注目したのは、旧ソ連製の中距離ミサイルになら装填して利用できるまで核弾頭の小型化に成功したという点だった。つまり、500キロ程度の短い射程の「中距離核ミサイル」こそ、新たな脅威となる〉

 短い射程の核ミサイルは、韓国の首都ソウルにとってこそ現実的な脅威となる。日本や米国には遠すぎて届かないからだ。にもかかわらず“脅威の再評価”が日本に極秘に伝えられた、とはどういう意味なのか。「中距離核ミサイル」が、なぜ日本の脅威となるのか――。

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