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麻生 幾
2017/10/15

【極秘シミュレーション】金正恩の核が東京を襲う日 #2

爆心地では70%の人が即死、20%が2カ月以内に死亡する

#1より続く)

無防備な東京五輪

 北朝鮮の核兵器に対する“脅威の再評価”をDTRAから受け取った日本の政府機関は、CBRNEに対する「事態対処医療」プランを作成するための実態調査を密かに開始した。

 そもそも日本では、核爆発による「事態対処医療」が脆弱であるという指摘が専門家からなされていた。

 しかし同政府機関の分析の結果、日本の「事態対処医療」の実態が、想像を遥かに超えるほど悲劇的だったことがわかった。

 特に、3年後に開催される、東京オリンピック・パラリンピックにおいても驚くべき事態が存在したのである。

 東京オリンピック・パラリンピックのような国家的行事は北朝鮮にとって、核を使った攻撃やテロの格好のターゲットになる。にもかかわらず、大会組織委員会では、CBRNEを含む「事態対処医療」の対策をまったく作っていないことが判明したのである(2016年12月1日現在)。

©iStock.com

 大会組織委員会は、各国の選手やスタッフへの医療体制の整備は強力に推し進めている。とは言っても、これはそもそも、大会招致の条件となっており、IOC(国際オリンピック委員会)には、開催国にそれを求めるレギュレーションが昔からある。

 しかし、観客や開催都市を守るテロや有事における「事態対処医療」への準備がまったく存在しないことがわかった。大会組織委員会には医療部もあるが、そのトップはドーピングの専門家。傘下のスタッフの間でも、「事態対処医療」の検討はまったくなされていないのである。

 しかも、大会組織委員会、東京都、厚生労働省のいずれにおいても「事態対処医療」は検討されていないし、まして、これら三者で「事態対処医療」を協議したことなど一度もない。難題に対して自ら積極的に動くことは避けたい、という“消極的権限争い”が行われている。

 では、東京オリンピック・パラリンピックへのCBRNEに対する「事態対処医療」はどこが行うのか――。

 CBRNEの「事態対処医療」でもっとも問題となるのが、ホスピタル・マネジメント(大量の被害者をどこの病院にどれだけ運ぶのか、というオペレーション)だ。

 同政府機関によると、現在、日本の3つの病院(帝京大、杏林大、都立広尾)が、「特殊医療チーム」に認定されている。CBRNEに対応する医療機関としての位置付けだ。しかし、これら3つの病院だけで、大量のCBRNEの被害者を受け入れられないことは自明の理である。にもかかわらず、大会組織委員会、厚生労働省、東京都のどこにも、ホスピタル・マネジメントの計画は存在しない。

 その空白は、悲愴な現実を浮き彫りにした。東京オリンピック・パラリンピックの期間中に、CBRNEが発生したならば、結局は、各医療機関、ひいては医療スタッフの“個人の犠牲”に頼るだけであるのが実態だ。これが受けとめなければならない現実だった。

 その無残な事実を前にして、日本救急医学会を始めとする7つの医学学会(7学会)は、動かざるを得なかった。大会組織委員会、厚生労働省、東京都が動かなくても、現実的には医療従事者が有事に対応せざるを得ないという悲壮感からだった。「7学会」は、東京オリンピック・パラリンピック期間中のCBRNEへの事態対処医療について、「東京オリンピック・パラリンピックに係る救急・災害医療体制の基本方針」なる提言をまとめるという異例の行動をとったのだ。

東京五輪の安全性は? ©iStock.com

 また、厚生労働科学研究費に基づく医療従事者たちによる研究の中に、恐ろしい問題点が列挙されていた。

 ――CBRNEに使われた物質が、放射性物質なのか、化学剤なのか、生物剤なのか、特定しようにも、それぞれの物質を所管する国の機関が異なっていることが問題である。しかも、それらの機関は縦割りとなっており、統合されていない。ゆえに、攻撃者、原因や原因物質の特定ができないまま、情報混乱の中で、誤った初動が開始される可能性が非常に高い。

 また、CBRNE発生で、消防の管理下で特殊医療チームが所属する指定病院へ搬送される傷病者はごく一部で、大多数の患者は自力で近くの救急医療機関を受診する。その結果、適切な初期治療を施せないために、死者数、重篤後遺障害発生数を増大させ、さらには、医療スタッフへの放射線や化学剤による汚染、ウイルス感染など、二次被害の拡大で医療の崩壊が始まる――。

 しかしこれら問題点について、大会組織委員会、厚生労働省、東京都はこれまで対処計画を作っていない。CBRNEの急性期医療で最も重要な、緊張性気胸への緊急対応術、止血、気道確保のみならず、爆症、銃創への事態対処医療に関する計画がまるでない。

 さらに、同政府機関が愕然としたのは、この驚くべき実態が、オリンピック・パラリンピックに限らなかったことだ。