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麻生 幾
2017/10/16

【緊迫シナリオ】朝鮮半島有事、そのとき自衛隊は邦人3万人を救出できるか #1

北朝鮮軍が韓国に進軍するとき、我々に何が出来るのか

source : 文藝春秋 2015年5月号

genre : ニュース, 国際, 政治

 北朝鮮による暴挙と挑発が続いている。仮に朝鮮半島で有事が発生した場合、自衛隊は韓国にいる邦人を救出することはできるのか。作家・麻生幾氏が緊迫のシナリオを描く。末尾に筆者による「追記」あり。

出典:文藝春秋2015年5月号(全2回)

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 国会では、安保法制の議論が熱を帯びている。政府与党は、自衛隊の海外活動等に関する15の法律の改正を今国会で目指している。

 しかし、どういう事態において、どのような活動を自衛隊が担うのか、その具体的な姿がなかなか見えない。特に、「日本にとって最も現実的な問題」(自民党幹部)とする「海外邦人救出(TJNO)」に関する法改正もなかなか実像が見えてこないと思うのは私だけだろうか。

「邦人救出」は、2013年に発生したアルジェリアでのテロ事件(10名の日本人技術者が死亡)で法改正に弾みがついた。在外邦人が空港や港まで来てくれれば自衛隊が輸送するだけだったものが、2013年の法改正で、大使館などのAA(集合地点(アセンブルエリア))に集まった邦人を自衛隊が警護して、空港や港の「後送統制センター(ECC)」まで陸上誘導輸送できることになったのである。

 そもそもは、数年前の朝鮮半島有事の想定から検討されてきた。しかし、いつも大きな問題に直面した。正当防衛でしか武器の使用は認められなかった。

 今回の法改正でも陸上誘導輸送を明文化するが、武器使用に制限がなされたままだ。

 安全保障に関わる国会議員の中からは不安の声が噴出している。

「現実の実相とは余りにもかけ離れている」(前出・自民党幹部)

 いかなる事態が予想され、その実相とは何か――。安全保障に関わる政治家や政治部記者を含めた関係者からの総合取材で、近未来を描くことにより、知られざる「実相」に迫ってみたい。

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 201X年6月XX日、午前2時。朝鮮半島。

 国際世論の反対にもかかわらず核実験を強行した北朝鮮に対し、中国もついに経済制裁を発動。北朝鮮は四面楚歌となった。

 経済制裁の1ヶ月後、北朝鮮軍の動きが活発となり、38度線の北、100キロ範囲の地帯に、北朝鮮軍の65パーセント、200キロに30パーセントが集結。木製のアントノフ機部隊に慌ただしい動き――。

韓国の大統領官邸・青瓦台 ©iStock.com

 韓国国防省ビル地下の北朝鮮警報室は、青瓦台(チョンワデ)(韓国大統領官邸)へ密かに参集した国家安全保障会議のメンバーへ報告した。

「北朝鮮軍は、我が方が最初の兆候を掴んでから12時間以内に目立った動員をせず、その場から直ちに、電撃戦(スタンディングスタート)を開始することが可能。最悪の場合、6時間で開戦となる――」

 3日後、DMZ(南北非武装地帯)の前線に北朝鮮が配備した、1万門もの野戦火砲部隊にも動きがあることを、警報室がチョンワデに緊急通報した。

 野戦砲の170ミリ砲はソウルまで届き、240ミリ砲はソウルを飛び越え、韓国軍と在韓アメリカ軍の重要基地さえ脅かす。1分当たりの発射砲弾数は2000発にも及び、最初の1分間で80000発以上の砲弾がソウルに撃ち込まれる。韓米統合軍の攻撃機が直ちに反撃しても、野戦砲は頑強なコンクリートで守られ、発射する時だけしか砲身が現れない。一度、火蓋がきられれば、ソウルが火の海となる惨状が否定できない――チョンワデの誰もが知っていた。

 韓国大統領府は、民間人の夜間外出禁止とともに移動禁止の命令を発令する準備を開始した。