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麻生 幾
2017/10/17

【緊迫シナリオ】朝鮮半島有事、そのとき自衛隊は邦人3万人を救出できるか #2

北朝鮮軍が韓国に進軍するとき、我々に何が出来るのか

source : 文藝春秋 2015年5月号

genre : ニュース, 国際, 政治

 201X年6月XX日、経済制裁を受けて四面楚歌となった北朝鮮は、韓国とのDMZ(南北非武装地帯)の前線に戦力を配備していた。朝鮮半島有事の危険性が高まったことを察知した日本政府は、開戦前になんとか3万人の在韓邦人を救出すべく、陸海空自衛隊による統合任務部隊(JFT)を編成した。

#1から続く

鳴り響いた銃声

 危惧された事態は、在韓邦人等救出作戦が実施された、その日に起こった。邦人たちが集まったECCの一つであるインチョン空港のエプロンに、韓国軍の輸送トラックやヘリコプターがさらに膨大に集結しはじめたのである。

 すでに到着していたC-130輸送機へ向かおうとしていた邦人たちは、エプロンからターミナルビルへと追い返された。

インチョン国際空港 ©iStock.com

 韓国軍のリエゾンが、誘導隊先任陸曹に緊迫した表情で説明した。

「DMZで、北朝鮮軍の侵攻の兆候がある。よって只今から、韓国内のすべての空港と港は、反撃基地として優先使用する」

 続けて、邦人の輸送に協力はするが、いつの離陸になるかは後から伝える、と言うだけだった。

 そして、その銃声こそ、総隊司令官が最も危惧していたことだった。

 邦人が集まった各空港や港で、ほぼ同時に、銃声が鳴り響いたのだ。

 邦人たちは自分の目が信じられなかった。韓国国旗を戦闘服に貼り付けた韓国軍兵士が、味方の兵士たちに向けて銃を乱射している。その人数たるや膨大だった。続く爆音で邦人たちに悲鳴が上がった。滑走路をタキシングしていた韓国軍の輸送機がオレンジの炎を上げて爆発したのだ。

特殊戦部隊がソウル市内へ

 その時、一人の邦人が後方に吹っ飛んだ。慌てて覗き込んだ隊員の目に飛び込んだのは、首から血を流す姿だった。

 隊員は声を張り上げた。

「狙撃だ!」

 その頃、北朝鮮警報室はさらなる緊急通報をチョンワデに送っていた。

「韓国軍の軍服や警察官の制服で偽装した偵察総局隷下の、少人数で編成された特殊戦部隊がソウル市内へ密かに浸透し、韓国の要人の暗殺や誘拐、重要防護施設や市街地に対するゲリラ作戦を開始した模様――」

 AAと指定された日本大使館は、車両の手配がなかなかできず苦悶していた。邦人は、大使館に100名、大使公邸に30名が残されていた。

 大使は、ECCまでの「陸上誘導輸送」が可能かどうか不安に陥っていた。数年前の安保法制で、紛争エリアでは実施不可能であることを知っていたからだ。

 大使の決断を待つまでもなく、統合任務部隊からは、実はすでに、大使館に集まった邦人の陸上誘導輸送についての打診がきていた。しかし、大使まで報告されていなかった。大使がこの輸送作戦の全責任を負うという認識が伝わっていなかったのだ。

 JTFは陸上誘導輸送の編成を誘導隊長に命じた。大使館や大使公邸から、キムポ、インチョンの空港までの道路は、最短ルートはもちろん、複数の迂回路を含め、創設されたばかりの陸上自衛隊の研究本部教訓センターで検証済みだった。

航空自衛隊のC-130輸送機 ©getty

 しかし、誘導隊長は覚悟を決めなければならなかった。かつての法改正で規定された「RUW(武器使用基準)」は、陸上誘導輸送隊にとって、過酷なものだった。陸上誘導隊は、すでにキムポ空港で待機中。狙撃班も配置完了。訓練も十分に行っている。だが、現地派遣司令部からの情報によれば、この空港から、大使館までの経路で、最短のルートは通行できない可能性があるという。数時間前、空港から伸びる高速道路と一般道で爆発が発生し、現在も炎上しているらしい――。

 正当防衛ではこの作戦は、相当な犠牲者が出るかもしれない。だから法律通り、作戦を中止すべきか――。アメリカ軍であっても、紛争地域においては、対戦車ヘリコプターなどの高度な火力支援を得ての作戦となるのだ。

 誘導隊長は決心をすでに行っていた。邦人をほったらかしなどできない――。

 迂回ルートかと考えたが、そこは韓国の警察も軍隊もまったく存在しないエリアだと分かった。もし、北朝鮮ゲリラ部隊と遭遇すれば、法律が禁止している交戦状態になってしまうことは明らかだった。