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ネトウヨが保守論壇をダメにした #1――古谷経衡×辻田真佐憲

ネット上で跋扈する“右翼”たちの実態

「ネトウヨ」はどこで生まれ、どこに向かうのか。

 ネットカルチャーと論壇事情に詳しく、ともに1980年代生まれの辻田真佐憲氏(近現代史研究者)と古谷経衡氏(著述家)が語り合った。

出典:文藝春秋2017年10月号(全2回)

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辻田真佐憲(近現代史研究者)©文藝春秋
1984年、大阪府生まれ。在学中からインターネット上で軍歌の研究発表をし、公務員生活を経て作家に。プロパガンダ、近現代史研究で話題作を発表。近刊は『文部省の研究』。

辻田 様々なメディアの世論調査を見ても10代、20代の男性では安倍内閣の支持率が、55パーセントを超えるなど高い数字を出しています。なぜ若者は安倍政権を支持しているのか、ネットは政治にどのような影響を与えるようになったのか、を読み解いて欲しいというのが編集部からの依頼です。

古谷 私は安倍内閣は、積極的に若者に支持されているとは考えていません。他に選択肢が見えてこないから支持するという消極的なものだと思います。リベラルの人たちは「若者の右傾化」といいがちですが、私はそうはみていません。

辻田 この数カ月の安倍内閣の20代の支持率(産経新聞・FNN調べ)を見ていると、男女問わず5月には70パーセント台だったものが、7月には男性は40台に女性は30台になっていました。いわゆる森友、加計問題が話題になっている時期と重なります。その後、内閣改造でやや上向いた。その意味では若者世代も何が何でも安倍内閣支持というわけではないようです。

古谷経衡(著述家)©文藝春秋
1982年、北海道生まれ。保守運動に参加した経験を活かし、若者論から、歴史、アニメなど幅広い分野で言論活動を行っている。近著の『「意識高い系」の研究』が話題となった。

 それでも依然として、20代で支持が高い。理由のひとつは、民主党政権の記憶だと思うんです。今の20歳は、小学6年生のときに民主党政権の誕生を見ています。鳩山さん、菅さん、野田さんといった首相たちの体たらくはなんとなく覚えている。だから安定的な政権に任せたいと思うのではないでしょうか。

古谷 おっしゃるとおりですね。はっきり言ってしまえば、安倍政権はマージャンでいえば安牌切りみたいなものです。「安倍政権を支持しておけば、失敗はしない」と考えているだけなんです。反骨精神がないといえばそれまでですけれど、若者の特徴として、いまの政権を応援することが、普通だと思っている。たとえば、サッカーの日本代表を応援するのと同じで「政治の日本代表なんだから応援しようよ」というくらいの感覚なんです。この傾向はしばらく続くのではないでしょうか。

辻田 現在、若者に大きな影響を与えているのはネットです。ネットでは、かなり過激な右の言説が大っぴらに語られ、「ネトウヨ=ネット右翼」という言葉もいまや一般化しました。彼らはネット空間で、安倍政権を積極的に支持しています。

古谷 新聞やテレビを見ない若者へのネットの影響力は見過ごすことはできません。ネット右翼の基本的な傾向は「嫌韓」「嫌中」「嫌マスコミ」。安倍政権が韓国に対して厳しい態度を取ると大喜びします。たとえば円とウォンの通貨スワップが継続されずに終了したときなどは「ついに安倍総理がキレた」などと大変な盛り上がりようでした。

分かりやすい保守

辻田 保守の側は長年に亘って“分かりやすい物語”を提供しつづけてきました。ベストセラー『永遠の0』を書いた百田尚樹さんのように分かりやすい上に「感動」を付け加えることに長けた人もいます。それがネットの力で拡散した。ネット右翼の主張もとにかく単純で、「中国、韓国が歴史問題で日本を攻撃している」などの言説は事実かどうかは別として、分かりやすい。その単純明快さで、若者にも影響力を持つようになったのだと思います。これに比べて、他者や多様性を重視するリベラルは一刀両断的な発言をためらいがちで、どうしても一歩遅れをとってしまう。

 ところで、ネット右翼はどれくらいの人数がいるものなのでしょうか。

古谷 私はいわゆるネット右翼は、200万人程度存在するのではないかと推測しています。2014年、衆議院選挙で自民党より右の主張をする次世代の党が比例区で約140万票を取りました。自民党に入れた人や選挙にいかない人もいますから、それよりは多いでしょう。

辻田 昨年、参院選で同党の後継である日本のこころを大切にする党の得票数は約73万で、議席を取ることすらできませんでしたよね。

古谷 ただ、ネット右翼から支持の高かった作家の青山繁晴氏が自民党から立候補して48万票ほど獲得していますし、他の親和性の高い候補の票を足すとだいたい150万票くらいになります。

辻田 これが多いか少ないかは議論がわかれるところですね。