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ネトウヨが保守論壇をダメにした #1――古谷経衡×辻田真佐憲

ネット上で跋扈する“右翼”たちの実態

古谷 共産党は昨年の選挙で600万票を取っていますし、退潮傾向にある社民党でも比例区で150万票を取っています。ネット右翼はとてつもなく多くはないけれど、無視もできない数というのが現状かもしれません。

 保守系の言論を研究する中で、この20年くらいの主だったネット右翼関係者を同時進行的にチェックしてきました。直接対面してもいますが、あくまでも個人の調査です。それを念頭に聞いていただきたいのですが、ネット右翼は男女比で言うと男性7に対して女性は3で圧倒的に男性が多い。世代としては40代前後のアラフォーが最も多いようです。地域的には偏りがあって、東京を中心とした首都圏に60パーセントが集中していて、関西圏は少ない。年収は中産レベルで、中小企業の経営者であったり、医者や地方公務員なども多い印象です。

古谷経衡(著述家)©文藝春秋

辻田 ある程度、時間とお金に余裕のある人ですね。

古谷 いわゆる底辺層がルサンチマンを抱えてやっているわけではありません。意外に思われるかもしれませんが、専業主婦も非常に多い。子供が中高生になって手がかからなくなった世代です。自費で作ったフジテレビ批判のアジビラを新宿などで撒いていた知り合いもいます。

辻田 あっ、そういう人に会ったことがあります。街を歩いていたら無言でビラを突きつけられ何事かと思いました。ただ今は右の方がネットでは目立ちますが、隠退した団塊の世代がネットに流入してきて「ネット左翼」的な存在が目立つようになるのではないでしょうか。

古谷 それは微妙ですね。左翼はすでに共産党や社民党などの既成政党があり、不満を吸い上げるシステムが出来上がっています。ネットで不満を解消する方向に行くのかは疑問が残ります。逆に言えば極右にはそれがなかったからこそ、ネット世界に跋扈するようになったのですから。

思想信条のない人々

辻田 ネットが社会の中心になり政治参加の手法が大きく変わりました。代表例は匿名性とワンクリックです。かつては、「あの政党、あの候補を応援したい」と思えば、演説を聴きに行ったり、選挙を手伝ったりと手間がかかった。それが、ツイッターやフェイスブックのボタンを一つ押すだけで、支持していることを表現できるようになったのです。反対に面倒な議論は避けられ、揚げ足取りがよりやりやすくなった。

古谷 大多数のネットユーザーは「ネタ」としての政治には興味があるけれど、本気で政治参加を考えているかというと非常に微妙なところです。政治関連の話題で左右問わずウケるのは二種類です。「〇〇が不正をやっている」という攻撃か「××さんはすべて正しい」という手放しの絶賛だけ。「こういう政策を考えています」などと事細かに書いても見向きもされません(笑)。

辻田 そうなりますよね(笑)。どこそこのホテルで食べ放題があるとか、ナイトプールが流行っているなどの遊びに関する情報が同価値で流れてくる。それなのにわざわざ政策を話題にするのは、物好きか政治的意図がある人だけです。

古谷 最近、ネットユーザー全体で話題になった政治の話題は、マスコミ報道の転写に過ぎず、豊田真由子議員の「ハゲ!」発言や今井絵理子議員の不倫報道でしたから、ワイドショーと大差はありません。

辻田 それにしても、「ネット右翼」とは組み合わせの悪い言葉です。近代国家は新聞などのメディアが同じ言語を使って均質の情報を伝えることで国民を1つに統合してきました。しかし、ネットは人によって見える世界が全く異なり、国民を統合するどころかバラバラに寸断してしまう。一方で、「右翼」とは、国や国民を統合することを好みますから、本来は対立する概念のはずです。そもそも、ネット右翼に思想信条があるのか疑問に思うのですが。

辻田真佐憲(近現代史研究者)©文藝春秋

古谷 確たるものはないと思います。私はネット右翼を「保守系言論人や文化人の理論に寄生する烏合の人々」と定義しているんですよ。

辻田 非常に面白い指摘ですね。実際、彼らは「偉い」と思った人の言葉をそのまま繰り返しているだけです。ある種の「左翼」にしても同様で、キーワードに反応する人々ばかりになってきている。それこそ、ネット右翼は「反左翼」で、逆に左翼の側は「反右翼」、「反安倍」でしかない。両者ともアンチの塊なので、建設的な議論に発展せず、自分たちが気に入らない言論にレッテルを貼り攻撃するだけになっている。

古谷 ネット右翼のそもそもの始まりは自然発生的なものでした。2002年の日韓共催のサッカーワールドカップで、韓国代表の試合で、あまりにも酷い誤審が続き、世界ランク上位のイタリアとスペインに勝った。これは審判の買収などの陰謀があったに違いないという意見がネットでは噴出しました。一方で、既存のマスコミは、そうした声を報じることは一切なく「ワールドカップ万歳」「日韓友好」で押し切った。それが今に続く「嫌韓」「嫌マスコミ」につながっていきます。

(#2に続く)