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ネトウヨが保守論壇をダメにした #2――古谷経衡×辻田真佐憲

ネット上で跋扈する“右翼”たちの実態

#1から続く

「ネトウヨ」はどこで生まれ、どこに向かうのか。

 ネットカルチャーと論壇事情に詳しく、ともに1980年代生まれの辻田真佐憲氏(近現代史研究者)と古谷経衡氏(著述家)が語り合った。

出典:文藝春秋2017年10月号(全2回)

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辻田 昔から嫌マスコミの言説はずっと存在していましたよね。「メディアはすべてユダヤ人がコントロールしている」といった類の陰謀論は真っ当な人は相手にしませんでした。しかしネット時代になると「テレビ・新聞が書かない真実」といった形で、爆発的に広まっていった。

古谷経衡(著述家)©文藝春秋

古谷 一部の保守系の言論人の責任も重いです。ネットに広まる様々なデマは、ある程度広まってくると、「真偽不明ながら」などの注釈をつけて、彼らが拡散するんです。元空将の田母神(たもがみ)俊雄氏、最近だとアメリカの弁護士のケント・ギルバート氏などが、そういった拡散を行っていますね。それに“お墨付きを得た”ネット右翼がさらに拡散する。

辻田 加えてマスコミの側の責任も指摘したいですね。ネットが力を持ち始めた頃、既存のマスコミは、「マスコミvs.ネット」という図式を自ら作り、「ネットは便所の落書きと一緒」などと見下してしまった。ネットだって、偏向もあれば正論もあるメディアの1つなのに。その反動でマスコミ側が態度を大きく改めた今でも、ネットはテレビ・新聞を叩けばやたら評判を博する不健全な空間となっています。

辻田真佐憲(近現代史研究者)©文藝春秋

 新聞でも雑誌でも昔の読者は、この言論人は「朝日新聞」を中心に活動しているから左だとか、この人は「産経新聞」だから右だなどと自然と発言の座標軸を頭の中に浮かべることができました。バランスをとりたい人は新聞を何紙も買って比較をしていた。一種のフィルタリングですが、その機能が絶たれてしまったのです。その結果、ネットの歪んだ意見が上手く中和されず、かつては相手にされなかったような陰謀論までも、まともな意見とフラットに並べられてしまうようになった。

古谷 「テレサヨ」なる言葉も生まれているのをご存知ですか? 森友・加計問題を連日放送したことで、ネット右翼は、テレビ局はどこも「反安倍」であるとのレッテルを貼った。そこで、「テレビばかり見ている人間は、無知な左翼だ」という妄想に発展し、テレサヨなる言葉を生んだのです(笑)。

辻田 酷い話ですが(笑)、言論の座標軸を想起しにくい人ほど、この手の陰謀論に踊らされがちです。

保守のビジネス化とは

古谷 今振り返ると2004年は、ネット右翼にとって大きなエポックメイキングだったと思います。右派系独立放送局の「チャンネル桜」がこの年に誕生しました。そして2007、8年頃から同番組はYouTubeとニコニコ動画へ転載されるようになり、爆発的に広まっていきます。このときから保守系の言論人と自然発生的に生まれたネット右翼の共依存関係が始まったんです。それまで、保守系言論人は『正論』などに原稿を載せても大した反響をもらえなかった。ところが、YouTubeに中韓の悪口を載せると3万回再生されたり、「先生のいうことは素晴らしい」などと反響が書き込まれる。櫻井よしこさんや故渡部昇一さんのような大御所ではなく、中堅以下のほぼ無名だった「保守系言論人予備軍」たちが一躍脚光を浴びるようになっていったのです。彼らは支持を増やすためにより過激によりわかりやすい「敵」への批判を繰り返していった。

 ネット右翼200万人のうちの0.5パーセントでも本を買ってくれれば、1万部売れることになります。書き手も出版社も儲かるからその手の本が粗製乱造されるわけです。

辻田 まさに「保守のビジネス化」。保守言説の粗製乱造というのは非常に納得がいきます。ある講演会関係の仕事をしている人が、「保守系の人はいつも『古事記』の話ばかりで飽きた」と言っていました。それから二言目には「ここだけの話ですが、先日、安倍さんと食事をして……」という自慢話ばかりするタイプしかいなくて辟易すると。

古谷 この手の保守系の論者はこぞって安倍首相に近しいことを勲章としていますね。せいぜいが「秘書と電話した」程度でしょうけど。