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連載THIS WEEK

木村 正人
2016/07/02

EU離脱を主導
英国のトランプ?
ボリス・ジョンソン

source : 週刊文春 2016年7月7日号

genre : ニュース, 国際, 政治

先祖にはジョージ2世も
Photo:Kyodo

 英国のEU離脱キャンペーンを率い、賭け屋のオッズで次期首相レースの先頭に立つ保守党のボリス・ジョンソン前ロンドン市長(52)に注目が集まっている。筆者は彼がロンドン市長に初当選した8年前、自宅に朝駆けし、その後も、何度も記者会見で質問したことがある。一言でいえば、某元都知事とは違い、気さくな人物である。

 ボサボサの金髪で自転車を乗り回し、小太りな風貌でいつも周囲を笑わせる。英BBCのトーク番組で際どいジョークを連発し、ロンドン五輪ではワイヤー滑降を試みて無様に宙吊りになった「政界の道化師」。しかし、仮面の下に隠された強烈なエゴと野心、知性、悪魔的カリスマと行動力が英国一であることを今回の国民投票で実証してみせた。

 キャメロン首相より2歳年上。名門イートン校、オックスフォード大を通じ、常にボリスは日の当たる道を歩いてきた。キャメロンはボリスの後をついて回る「坊や」だった。2人は同じゴール、ダウニング街十番地(首相官邸)を目指していた。が、知が走り過ぎるボリスは転び、堅実な「坊や」に先を越される。

 英紙タイムズの見習い時代、退屈な記事を面白くするため談話をでっち上げて解雇。ライバル紙デーリー・テレグラフに拾われ、ブリュッセル特派員となる。持ち前の諧謔精神を発揮し「ナメクジが魚だって」「ソーセージやチップスにも規制」とEUの前身、欧州経済共同体(EEC)をこき下ろす記事を書きまくる。当時、欧州に連邦制を導入しようとするドロール欧州委員会の野望にサッチャー英首相は必死に抵抗していた。

 ボリスの欧州懐疑主義は「立身出世の手段」と当時の記者仲間は言う。デタラメな記事も多かった。EUという官僚組織は規制の帝国を築き続ける。英国はEUの中で次第にドイツに抗えなくなってきた。しかし、平和と繁栄の礎であるEUから英国が抜ければ、未完のプロジェクトは瓦解する。英国経済も致命的な打撃を受ける。

 ボリスは抑えがたいエゴと英国、欧州の未来を天秤にかけた。キャメロンはボリスに重要閣僚ポストを提示する。しかしライバル殺しの本能は離脱派を主導し、首相の座を奪う道を選ばせたのである。