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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/10/31

胃の中で跳ねる“ヒキガエルジュース”の驚きの味――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴

 前回に続き、ペルー・アンデスの悪魔信仰から生まれた(かもしれない)カエル丸ごとジュースの話。

 マリーナさんという現地女性の案内で、首都リマ最大の市場ガマラへ向かった。小洒落たリマの中心街から来ると、まるで別の国。乗客がぎゅう詰めになったオンボロバスの間を三輪タクシーが走り回り、この混沌と熱気はまるでバングラデシュの下町のよう。私たちはカエルジュース屋台を探すがなかなか見つからない。

 薬用サボテンやヘビの皮といった、怪しい屋台をかき分けて行くと、突然カエルジュース屋が出現した。屋台ではなく建物内の小さな店。ミキサーが二台並んでおり、若い女子学生や近所の人らしきおじさんなどがカウンターに腰掛けている様子は、普通のジューススタンドに見えるが、上下に二つ重ねられた水槽にカエルが入っているのがちがう。上は「ラナ」と呼ばれるトノサマガエルに似たカエルが水に浸かっている。いっぽう、下の水槽は乾燥しており、中にいる「サポ」はもっとでかい。というか、これ、ヒキガエルだろう。

「ラナは頭にいい。記憶力がよくなる」「サポは特に呼吸器系の病気にきく」とお客さんたちが親しげに教えてくれる。なるほど、そういう具体的な効能が信じられているのか。それにしても老若男女がジューススタンドでオレンジやイチゴを頼むように、トノサマガエル似やヒキガエルを頼んでいるのはやはり異様だ。

カエルジュースを調合する

 やり方もジューススタンドより荒っぽい。私がヒキガエルを頼むと、アンドレ・ザ・ジャイアントに少し似た顔の大柄な女性は、水槽のヒキガエルをひっつかんで取り出すなり、じたばたするカエルの足をもって、タイル張りのカウンターの角に頭をバコンと一撃。これでカエルは即死。

 次に年配の男性がそれを受け取り、皮と内臓を手早く取り除き水洗い。むいたカエルは鍋で茹でる。

 これを見た私は「あー、よかった!」と心底ホッとした。もしかしたら生でミキサーにかけるのかと心配だったのだ。