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佐藤多佳子
2017/10/26

祝・横浜DeNA日本シリーズ進出! 小説家・佐藤多佳子さんのキャンプ取材を特別掲載

山﨑、三嶋、石田、熊原 4投手にインタビュー

10月25日、19年ぶりの日本シリーズ進出を決め、ハマスタを興奮の渦に巻き込んだ横浜DeNAベイスターズ。劇的な勝利を記念して、今年「オール讀物4月号」に掲載されて話題を呼んだ小説家・佐藤多佳子さんによるキャンプ・リポートを再録する。陸上競技を舞台にし本屋大賞を受賞した『一瞬の風になれ』やノンフィクション『夏から夏へ』など丹念な取材で知られる佐藤さんは大の横浜DeNAベイスターズファン。キャンプの「現場」で佐藤さんが見たものは──。

©時事通信社

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 神奈川県、東丹沢の白山。標高二百八十四メートルの低山だが、勾配がきつい。プロ野球の新人王が、重い機材をかついだ報道スタッフたちが、顔を歪めて辛そうに上る──昨年のその映像を見ていたので、ハイスピードについていけないことはわかっていた。とんでもなく遅れて展望台にたどりつくと、インタビューの真っ最中だった。最年少の熊原健人投手が下から背負ってきた差し入れのみかんをいただく。

この厚木の山を毎年、三浦大輔選手は自主トレで登っていた ©文藝春秋

 この「山登り」は、昨年引退した三浦大輔氏が毎年行ってきた厚木の自主トレのメニューの一つだ。もう自主トレの必要がない三浦さんだが、今年は若手投手四人のコーチ役として同行している。二〇一七年一月十三日はマスコミ公開日で、山登りのあとは、厚木市内のグラウンドで、投内連係、アメリカンノック、階段ダッシュなど下半身の強化を目的とした練習を行った。

 プロ野球の自主トレを見学するのは初めてだが、四人の若手投手の動きは、それぞれ印象的だった。秋季キャンプのMVP投手に選ばれた最年長の三嶋一輝投手の、いっさい手を抜かない気合いのこもった練習ぶりは見ていて気持ちがいい。クローザーの山﨑康晃投手は、身体にすごいバネを感じる。軽いというより、力感のあるはずむような動きだ。開幕投手に内定している石田健大投手は、どの動きにも無駄がない。スーッと昇っていく階段ダッシュを見ていると、効率のいい身体の使い方が自然にできるのかもしれないと思う。初参加の熊原投手は、階段ダッシュのやり方がわからず戸惑っていたが、スピードはすごい。

 ノッカーを務め、階段ダッシュのタイムキーパーをする三浦さんの目は、明るく優しい。昨年は同じメニューをこなし、後輩たちもライバルだったはずだが、今年はすべてを託し、見守る立場に変わった。それでも、ボールやバットを握る三浦さんを久しぶりに見られて嬉しく、そう思うことが少し寂しかった。

厚木市内のグラウンドでの練習を見守る佐藤さん ©文藝春秋

 スポーツの「現場」を見ることが好きだ。競技そのものだけでなく、その準備段階の練習見学は、本当に面白い。陸上競技のスプリントを題材に小説とノンフィクションを書き、高校の部活や日本代表選手の練習を取材して、仕事に反映しきれないほど、様々な大きな感動をもらった。スポーツという題材では完全燃焼した感もあったが、数年前から、また何か書きたくなってしまった。

 もし、チャレンジするなら野球しかないと思っていた。自分の人生を振り返ると、えんえんと見てきた野球が刻まれている。子どもの頃から見ているが、大学時代に横浜大洋ホエールズのファンになってからは、自分史と球団の歴史がぴったり寄り添っている。

 可能性を探り、構想を立て、取材を申し込み、現在、勉強中だ。競技経験のない自分が、プロ野球というメジャーな題材を扱うのは、正直、怖い。好きなぶん、さらに怖い。でも、書こうと思った時から、野球の見方が変わった。一投一打、さらに真剣に細かく見るようになった。見れば見るほど、知らない新しい世界が開けていき、胸がときめく。

四人の投手へインタビュー

 沖縄県の宜野湾(ぎのわん)市立野球場は、風が強い。一週間のあいだ、寒い日も暖かい日もあったが、風だけは強烈に吹き続けていた。横浜DeNAベイスターズ春季キャンプ、第二クール初日二月六日から第三クール途中の十三日まで、取材パスをいただいて見学した。

 選手への取材も、タイミング次第では可能ということで、七日に厚木自主トレメンバーの投手の方々に大先輩へのコメントをお願いしてみた。練習終わりに話が聞ければということになり、室内練習場の入口で「張り込む」。記者っぽいのか、怪しい人なのか、よくわからない。隣接するグッズ売り場の前には、サイン待ちのファンの人々の行列ができていく。そんな中、リュックを背負った(練習終わりのスタイル)山﨑投手が出てきて、呼び止めることに成功する。その後、広報の方に全員呼んでいただけたのだが、急なお願いなのに、どなたも丁寧な対応で、本当にありがたかった。コメントすべてを載せたいが、抜粋で。

ラミレス監督から開幕投手に指名された石田健大投手を「出待ち取材」 ©文藝春秋

 ──三浦さんとの自主トレで一週間生活を共にして、ピッチングコーチとして球場で教わるのとは、また別に、学んだことがありましたか?

 山﨑 長くやる秘訣を聞くんじゃなく、背中を見て学ぶことが多かったです。疲労の抜き方、準備の仕方、三浦さんが長年の間、色々と工夫してきたものを自分の身体で感じました。同じ時間に起きたり、一緒に食事をしたり、山登りをしたりは、シーズンにないことで、近くに感じて学べることは色々ありました。二回目の厚木自主トレは、メニューや三浦さんが何を望んでいるかをわかって練習したので、余裕をもってできました。

 三嶋 四年間プロにいて背番号が17、18で納会でも一緒の部屋になったり、ご飯に連れていってもらうことも多かったですが、一緒に生活していても隙がないですよね。あら探しじゃないですけど、何かないのか探したこともありましたが、やっぱりないんです。癖とか浮いた話とか変な話も聞かない。人付き合いも素晴らしく人脈が豊かで、自主トレにも色んな人が来たり、サポートしてくれて、本当にすごいと思いました。

 石田 一緒に宿に泊まってご飯を食べている三浦さんは、人として違うというか、優しい方に戻るんです。でも、ご飯を食べながらでも野球の話をしっかりとしてくださるんで、表も裏もコーチかなという気がします。生活面では、去年は僕が、今年はクマ(熊原投手)が、お茶の淹れ方を教わりました。一番下が淹れるんで。お前はそんなものもわかんないのかって(笑)。なかなか機会がないから(同じ濃さに淹れる)やり方がわかんないんですよ。代々教わっていく感じですね。


 熊原 長年結果を出している三浦さんに学びたくて参加したかったんですけど、優しい存在なんですが、恐れ多くて言いだせず、三嶋さんに色々質問していたら、話が伝わって三浦さんのほうから誘っていただけました。一緒に自主練した先輩たちも、本当にみんなすでに活躍されて、人としてもすごくちゃんとしていて、迷惑をかけてばかりの僕は学ぶことだらけで、日常生活でも、こんなふうになりたいと思いました。

 インタビューの間中、すごい人数のファンに山﨑投手はサインや写真撮影のサービスを続けていた。