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“ハマの番長”から後輩投手たちへ───三浦大輔×佐藤多佳子 横浜DeNA球愛対談 ♯2

“ハマの番長”から後輩投手たちへ───三浦大輔×佐藤多佳子 横浜DeNA球愛対談 ♯2

日本シリーズ進出記念特別再録

三浦さんの球はコーナーの内も外も最後はミットにキューッと吸い込まれていく

佐藤 先発の方というのは、勝ち星というものに非常にこだわっていますよね。たとえば来季の抱負を聞かれると、「○○勝です」と答えることが多いんじゃないでしょうか。

三浦 あれは選手以上に記者の方が数字にこだわっているパターンもあると思いますよ。もちろん選手にとっても勝ち星は多い方がいいですし、僕も現役でローテーションをやっている時は、二桁勝利が最低条件だとは思っていました。

佐藤 でも価値のある9勝とそうでもない10勝があるというか、勝ち星というのは、援護点、リリーフ、相手の投手など色んな要素が絡んでくるものだから、二桁勝利があまりに重要視されることに、私は少し違和感があるんです。

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三浦 昔とはずいぶん違ってきて、クオリティ・スタート、つまりゲームをどう作るかもだいぶ評価されるようになってきました。勝ち星が八つしかないけど、毎回、ゲームをつくっているというのでも球団の査定としてはプラスになったりしますし、三割は打っていないけれど、守備に非常に貢献している、あるいは中継ぎの投手についても、最近はだいぶ内容もクローズアップされるようになってきたとは思います。

佐藤 三浦さんはブログに勝つたびに、白星(☆)を載せていらっしゃいましたけど、やはり白星がつくのは投手の方は何よりうれしいことなんですね。

三浦 勝った時くらいは「☆」を載せてもいいだろうと思ってやっていたんですけど、シーズンに入ってひとつ勝つのがどれだけ大変かが分かっていますからね。たぶん十何勝する投手でも、三割打つ野手でも、開幕から負けが続いたり、ノーヒットが続くと今年はもう駄目なんじゃないかと悩んでしまうと思うんです。僕は優勝した翌年の99年に開幕投手をやらせてもらったんですけど、そこから2カ月半くらい勝てなかったんですよ。あの時は自分ひとりで背負い込んでいる感じで、ようやく6月くらいに一勝目を挙げるまで本当に辛かったですね。

三浦大輔さん ©杉山秀樹/文藝春秋

佐藤 少し話は変わりますけれど、よく「ピッチングの組み立て」という言葉も耳にします。あれは投手と捕手の間で作っていくもので、三浦さんは谷繁(元信)捕手とコンビを組んで、4年目くらいからサインが合うようになってきたとご著書で興味深く読みました。

三浦 谷繁さんのリードは最初は分からなくて、若い頃は結構、怒られたんですよ。スライダーのサインが出て、なぜスライダーか分からないまま、でもその通りに投げて打たれる。ここはボールでいいところなのにストライクのサインが出たり、その逆を言われたり、その意味が分からないまま投げて打たれるものだから、だんだん先読みするようになったんです。最初は当たりませんでしたけど、次はこの状況だったらスライダーのサインが出るだろう、次はここでこの打者から三振を取りたいんだな、ここは詰まらせたいんだ、ここは様子見だからボールでいいんだな、と谷繁さんの意図が分かるようになってきた時は、嬉しかったし面白かったです。同じフォークでもただ単に投げる球と意図が分かっていて投げる球では軌道もまったく違うし、腕の振りも違ってきます。谷繁さんとのサインが合ってきた時は、投球間のリズムもどんどん早くなってきて、打者に考えさせる間もないですから、結果もついてきましたよ。

佐藤 では若い捕手と組まれる時は、ある程度、三浦さんがリードしていく形になりますか?

三浦 谷繁さんが中日に移られてから、相川(亮二)との時は一緒に考えていくような感じで、その後は色んな話を試合中もしていましたし、試合後もビデオを見ながら、どういう意図でサインを出しているのか──投げなかった球種についても話をしていました。配球って難しくて、正解はないと思うんですよ。スコアラーの方の説明を受けて、試合前にはもちろんミーティングをして、相手打者なり、自分のチームの投手の状況の説明を受けます。でも前回と今日とでは、投手が同じスライダーを投げても、調子によって曲がり方、スピード、キレが変わってくる。打者が何を狙っているのかも反応を見ないといけないし、要するに捕手には観察力が大事だという話もしましたけど。

佐藤 お話を聞けば聞くほど、難しい世界ですね。本当にボール半分のコントロールによって天国と地獄が分かれる、という……。

三浦 駆け引きをするにもコントロールがなければできないので、とことんそれを磨くしかないだろうと僕は思っていました。

佐藤 三浦さんの球はコーナーの内も外も最後はミットにキューッと吸い込まれていくような感じでした。