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宮部みゆきロングインタビュー 作家生活30年を支えた私のブックヒストリー39冊

国民的人気作家はこんな本を読んできた

 作家生活30年を迎えた宮部みゆきさん。1987年に第26回オール讀物推理小説新人賞を「我らが隣人の犯罪」で受賞してデビューして以来、ミステリーの傑作を次々に発表しながら、その枠にとどまらず時代小説、ファンタジー小説まで幅広いジャンルで作品を発表してきた。その作品群は、どんな読書体験から生まれてきたのか。

 杉村三郎シリーズの最新短篇「絶対零度」300枚が一挙掲載されている「オール讀物​」11月号より、ロングインタビューを転載する。

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作家生活30年を迎えて

――作家生活30年、おめでとうございます。この節目に、数多くの作品を生みだしてきた宮部さんがどんな読書をしてきて、どうやって面白い本を見つけているのか。さらには、宮部作品はどんな本に影響を受けているのかについて、お話をうかがいたいと思います。

 子どもの頃、ご家庭ではみなさんで本を読まれていたのですか。

宮部 いえ、本当に、下町の一般家庭で、家にちゃんとした本棚もなかったので、小中学生のころは、本に接するのは、おもに図書館でした。

 作家になってから、家に本が溢れるようになると、両親がいろいろ読むようになり、それで初めて「あ、うちの親は本好きだったんだ」と気づいたくらいで(笑)。

――子どもの頃の印象的な作品として、よくルーマー・ゴッデンの『人形の家』という作品を挙げられていますね。

人形の家 (岩波少年文庫)

ルーマー ゴッデン(著),瀬田 貞二(翻訳)

岩波書店
2000年10月18日 発売

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宮部 小学5年生のときに、移動図書館で借りて読みました。ゴッデンの『人形の家』は、人形の家族たちの話ですが、とても哀しい出来事が起きます。高校生になって、岩波少年文庫に入っているのを見つけて買って、その本は今でも家にあります。何度も読み返して、もう日に焼けてボロボロですけどね。

 あとは、ハーパー・リーの『アラバマ物語』も私にとって大切な一冊です。1930年代の白人女性暴行事件と、その容疑をかけられた黒人男性の裁判を描いた小説で、アメリカでは中学生の副読本になっているそうですよ。

 私が今、とってもファンで、『エヴリシング・フロウズ』をはじめ全作品を愛読している、津村記久子(つむらきくこ)さんと対談する機会がありまして、『アラバマ物語』の話で盛り上がってうれしかったなあ。

 あとは、中学3年で読んだウィリアム・ゴールディングの『蠅の王』も、少年たちの「理性」と「本能」がぶつかるとんでもない小説でした。作家として40年を迎えるまでには、それらのような作品を一つ書きたいですね。

アラバマ物語

ハーパー・リー(著)

暮しの手帖社
1984年5月1日 発売

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エヴリシング・フロウズ

津村 記久子(著)

文藝春秋
2014年8月27日 発売

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蠅の王 (新潮文庫)

ウィリアム・ゴールディング(著),平井 正穂(翻訳)

新潮社
1975年3月30日 発売

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 本好きな友達からも、よく借りましたね。ポプラ社の『少年探偵江戸川乱歩(えどがわらんぽ)全集』を持っていた友だちがいたんです。

 この頃、北村薫(きたむらかおる)さん命名の「乱歩でキャー」事件という出来事があるんです。小学3年生のころかな。その乱歩全集を持っていた女の子と、もう一人の友達と、私の3人で、『三角館の恐怖』を放課後の誰もいなくなった教室で読もうという話になりました。でも、3人で交代に読み上げていくうちに、だんだん怖くなってきて、しまいには「キャー!」って悲鳴を上げながら、3人で廊下に飛び出した。すると、そこに運悪く先生がいて、「何ごとだ!」と、お説教を喰らいました。思えば、当時から、恐怖小説が好きなくせに、怖がりな子どもでした(笑)。

――百物語の「三島屋」シリーズへと続く、「怪談好き」は子どもの頃からなんですね。

宮部 はい。ただ、恐怖小説のきっかけは、日本のものではなく、英米の恐怖小説、昔で言う怪奇小説なんです。講談社の『世界の名作怪奇館』、そして東京創元社の『怪奇小説傑作集』といった、いろんなタイプの作品が読めるアンソロジーがとても好きでしたね。

 でも、そもそも怪奇小説を手に取るきっかけは海外ドラマの「トワイライト・ゾーン」とか、「アウター・リミッツ」なんです。だから、私をもともと本へと導いてくれたのは、むしろ「映像」です。親が映画好き、とくに洋画が好きだった影響が大きいと思います。昭和30年代って、特に娯楽としての「映画」が、華やかなりし時代でしたし、「ベン・ケーシー」や「鬼警部アイアンサイド」といった海外ドラマシリーズも全盛期でした。

 映像から入ったという点では、松本清張(まつもとせいちょう)もドラマや映画からですし、早川書房のポケミス(ポケット・ミステリ)を読み始めたのも、テレビで「ペリー・メイスン」を観て、E・S・ガードナーの原作を、図書館で探したのがきっかけです。

 高校生の頃は、市川崑(いちかわこん)監督の「犬神家の一族」(1976年)が公開されて、横溝正史(よこみぞせいし)ブームに直撃し、横溝作品にもハマりました……。

 山本周五郎(やまもとしゅうごろう)も、NHKドラマがきっかけでした。倉本聰(くらもとそう)さんらが脚本を書かれている「赤ひげ」(1972-73年)を、子どもながらに毎週、観ては泣いてました。だから“赤ひげ”新出去定(にいできょじょう)というと、黒澤明監督の映画版の三船敏郎(みふねとしろう)さんを思い浮かべる人が多いかも知れませんが、私にとっては、ドラマ版の小林桂樹(こばやしけいじゅ)さんなんです。このドラマがきっかけで、原作の『赤ひげ診療譚』から山本周五郎を読み始めて、新潮文庫にはいっている作品を片っ端から読みました。

赤ひげ診療譚 (新潮文庫)

山本 周五郎(著)

新潮社
1964年10月13日 発売

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