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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2017/11/06

ペルーで食べたアマゾン蛇の圧倒的美味――高野秀行のヘンな食べもの

イラスト 小幡彩貴

 ペルーの首都リマの市場で、カエルジュースを飲みに行った帰りのこと。

 乾燥させた蛇の皮を売る屋台が大通りの歩道にいくつか並んでいた。これで肌をこするとすべすべになると女性に人気なのだという。「うちのお母さんも前に使っていたことがある」と案内役の女性マリーナさん。へえ、と感心していたのだが、ある屋台で思わず足が止まった。

 年配の小柄な女性が大きな蛇を台の上にのせてナイフで切りつけている。私の腕くらいある、赤と黒の模様をした大きな蛇だ。「気のせいか妙に生々しいな……」と思って見つめていると、蛇がうねうねと動いている(後で調べたら、中南米最大の蛇、ボアだった)。

市場で蛇をさばく女性

 なんと、今ここで殺したところなのだった。訊けば、「アマゾンから生きたまま持ってきた」とのこと。いくら市場の脇とはいえ、道端だ。驚く私を尻目に、おばさんは慣れた手つきで蛇の皮をちゃっちゃと切って剥いていく。この肉、食べられる?と訊いたら、あんた、バカかという目つきで見られた。「当たり前でしょ」

 これはラッキー! カエルジュースですっかりハイになっていた私は飛び上がらんばかりに喜んだ。今まで蛇は何度も食べたことがあるが、アマゾン産は初めてだ。一キロくらいの肉を十五ソル(約五百二十円)で購入。この値が高いのか安いのかは、マリーナさんにもわからないという。「蛇肉なんか買ったことないから」。さすがにペルー人といえども、食べるのはごく一部らしい。重ねて幸運なことに、市場からそう遠くないところに、マリーナさんのお母さんが住んでおり、そのまま車で直行。挨拶してビニール袋の蛇肉を見せたら、「やだあ、あたし、蛇なんか食べないわよ〜」と笑いつつ、全く躊躇なく調理を始めた。家族には好む人がいる(いた)らしい。